【5月27日 AFP】現地時間27日に閉幕を迎える第60回カンヌ国際映画祭(60th Cannes Film Festival)のパルム・ドール(Palme d’Or)受賞作品発表がいよいよ迫ってきた。有力候補とされるのは、コーエン兄弟(Coen brothers)の『No Country for Old Men』とルーマニアのクリスチャン・ムンギウ(Cristian Mungiu)が監督を務めた『4 Luni, 3 Saptamini si 2 Zile4 Month, 3 Weeks and 2 Days)』の2作品だ。

 今回のコンペティション部門に出品された22作品は、ピンからキリまでそろっているとの評価がある。世界レベルの傑作もあれば、意味のわからない駄作まであるという。

■有力候補の2作品

 テキサス州西部を舞台にしたコーエン兄弟の『No Country for Old Men』に観客は拍手を送った。スペイン出身の俳優ハビエル・バルデム(Javier Bardem)が脱獄中のニヒルな殺人犯を恍惚として演じたこの作品は、スリラー映画だが、コメディ的な要素やアドレナリンが出そうなほど興奮する場面なども盛り込まれている。

 『4 Luni, 3 Saptamini si 2 Zile』は、社会主義政権下のルーマニアで違法な中絶を望む女性たちを描いたもので、カンヌに集まった映画のプロたちに衝撃を与えた。エンターテイメント紙バラエティ(Variety)は、この作品を「驚くべき事実」だと評している。

「テンポが完ぺきで演技も素晴らしい『4 Luni, 3 Saptamini si 2 Zile』は、見事な作品です。違法な中絶を中心に描いただけでなく、旧ソ連支配が終わりを迎えつつある困難な日々に、生き抜こうとした人々を描いている」と評論家のJay Weissberg氏は書いた。

 また、『No Country for Old Men』のバルデムに加えて、この作品のAnamaria Marincaも主演賞の呼び声が高い。

■そのほかのコンペティション部門出品作品

 さらには、トルコ系ドイツ人、ファティ・アキン(Fatih Akin)監督の『Auf der Anderen SeiteThe Edge of Heaven)』や、米国で実在した連続殺人事件を描いたデヴィッド・フィンチャー(David Fincher)監督の『ゾディアック(Zodiac)』、悲劇を描いたロシア映画『IzgnanieThe Banishment)』や『Alexandra』もコンペティション部門に出品されている。

 そのほかには、イラン人漫画家マルジャン・サトラピ(Marjane Satrapi)が自伝的ともいえる、イラン革命時代を生きた少女を描いたアニメーション作品『ペルセポリス(Persepolis)』も注目だ。

 また、過去にパルム・ドールを受賞したクエンティン・タランティーノ(Quentin Tarantino)も『Death Proof』を出品している。
 
 カンヌが好むアジア作品としては、ウォン・カーウァイ(王家衛、Wong Kar-wai)監督が手掛け、ジュード・ロウ(Jude Law)とノラ・ジョーンズ(Norah Jones)が主演した『My Blueberry Nights』がある。

 また、河瀬直美(Naomi Kawase)監督の『殯の森(Mogari No Mori)』は好評で、 韓国出身のイ・チャンドン(Lee Chang-dong)監督の『SECRET SUNSHINE』は、家族の相次ぐ悲劇に見舞われる女性を演じた主演女優のチョン・ドヨン(Jeon Do-Youn)の演技が高い評価を得ている。

■酷評された作品も

 しかしながら、例年通り、批評家の的になる失敗作もある。

 ジェームス・グレイ(James Gray)監督が手掛け、ホアキン・フェニックス(Joaquin Phoenix)、マーク・ウォルバーグ(Mark Wahlberg)、ロバート・デュバル(Robert Duvall)が出演した『We Own the Night』。ニューヨークでロシア系マフィアに引き裂かれたロシア人家族を描いたこの作品は、単調な復讐劇で、評価は冷ややかなものだった。

 これまでに2度のパルム・ドール受賞経験を持つセルビアのエミール・クストリッツァ(Emir Kusturica)監督が手がけた『Promise Me This』は、粗野なドタバタコメディで観客を落胆させた。

 オーストリア出身のウルリッヒ・ザイドル(Ulrich Seidl)監督の『Import Export』は、東西に分断されたヨーロッパでの悲劇を描いたが、米エンターテインメント情報誌ハリウッド・リポーター(Hollywood Reporter)から、「悪趣味で安っぽい作品」だと酷評を受けた。
 
 ハンガリー出身のベラ・タール(Bela Tarr)監督が手掛けた『The Man From London』は、重々しいアート作品で監督の自己満足の作品だと非難された。

■コンペティション部門以外の話題

 人気作品はコンペティション部門以外にもあった。

 スター勢ぞろいの注目作は『オーシャンズ13(Ocean’s Thirteen)』。上映前のレッドカーペットにはジョージ・クルーニー(George Clooney)、ブラッド・ピット(Brad Pitt)、マット・デイモン(Matt Damon)ら出演人が登場した。また、『U2 3D』の上映を前に、U2が真夜中のレッドカーペットで即興ライブを行うというイベントもあった。

 アンジェリーナ・ジョリー(Angelina Jolie)が主演し、ブラッド・ピットがプロデューサーを務め、米ウォールストリート・ジャーナル(Wall Street Journal)紙のダニエル・パール(Daniel Pearl)記者暗殺事件を描いた『A Mighty Heart』は賞賛の嵐だった。

 また、レオナルド・ディカプリオ(Leonardo DiCaprio)は自身が脚本、プロデュース、ナレーションを務め、地球温暖化をテーマにしたドキュメンタリー作品『The 11th Hour』を公開した。

 『華氏911(Fahrenheit 9/11)』で2003年のパルム・ドールを獲得したマイケル・ムーア(Michael Moore)監督は、米国の医療制度を批判したドキュメンタリー『シッコ(Sicko)』で、笑いと涙を誘った。(c)AFP/Deborah Cole