【5月25日 AFP】第60回カンヌ国際映画祭(60th Cannes film festival)で22日、マーティン・スコセッシ(Martin Scorsese)監督が世界映画基金(World Cinema FoundationWCF)の設立を発表した。同団体は有名監督たちを委員に迎え、世界中の忘れられているフィルムの保存と修復を目的とする。今年のカンヌ国際映画祭では、この基金で最初に復活させた3本の映画を上映する予定だ。

■映画への愛情から生まれた基金

 スコセッシ監督は、長年映画に対し持ち続けてきた愛情と、将来性のある映画のフィルムの劣化や紛失の懸念から、同基金の設立を決めたという。

 「わたしのの両親はニューヨークの労働階級出身で、まともな教育も受けていなかったため、本を読む習慣もなかった。だから私はテレビで沢山の映画を観た。この経験が私に世界、特に映画の世界への扉を開いてくれた。私はまさにこういった文化の中で育ったと言ってもいい。世界でも同じ経験を持つ人はいると思う」とスコセッシ監督は語る。

■「世界のどこかに眠っている名作を」

 スコセッシ監督をサポートするのは、中国出身ののウォン・カーウァイ(王家衛、Wong Kar-wai)監督、英国人のスティーブン・フリアーズ(Stephen Frears)監督、 メキシコ出身のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ(Alejandro Gonzalez Inarritu)監督、ブラジル出身のウォルター・サレス(Walter Salles)監督、トルコ系ドイツ人のファティ・アキン(Fatih Akin)監督、マリ共和国のスレイマン・シセ(Souleymane Cisse)監督たち。WCF委員に就任し、それぞれの地元で生まれた価値ある作品を発掘するという。同基金は主に、発展途上国の映画を対象に活動を行っていく。

 スコセッシ監督は、この活動が現地の市場や、映画館、映画祭、そしてインターネットなどを通して地元の作品の配給を推進していくことに繋がるのでは、と言う。

■置き去りになった「孤児」フィルムを救え

 カーウァイ監督は2年前、サンフランシスコ(San Francisco)郊外の倉庫で何百本もの中国映画を発見した。これらを生かしてどのような事ができるのか長年考えてきたところ、フィルムを香港に持ち帰って持ち主を
探し出し、できるだけ多くのフィルムを修復することにしたという。

 同監督は見つけたフィルムを、「祖国を離れ米国に渡った中国人労働者たちのかけがえのない遺産」だと言う。「これらのフィルムは孤児のようなものです。フィルム自身は誰のものだったのか分からないのですから」とカーウァイ監督。

 「想像してください。第2次世界大戦前の米国で働く中国からの移民たちを。彼らは家族を連れて来ることはできませんでした。チャイナタウンで孤独に暮らしていたのです。これらのフィルムが彼らにとって、唯一の娯楽だったのです。これが世界中の中国人を結びつける上で、非常に重要な役割を果たしたのではないでしょうか。これらのフィルムは人々の間で分かち合えるものだったからです」

■監督達の思い入れも強い上映3作品

 モロッコ出身のAhmed El Maanouni監督の『Transes(1981年)』。ミュージシャンNass El Ghiwanを追ったドキュメンタリー作品。スコセッシ監督の『最後の誘惑(Last Temptation of Christ)』は、この映画にインスピレーションを受けたという。

 ブラジル出身のMario Peixoto監督が手掛けた『Limite(1931)』。ボートで旅に出る3人を描いた作品。10年前にサレス(Salles)監督が再び見つけ、Peixoto監督のアーカイブを設立中。

 ルーマニア出身の俳優/監督Liviu Ciuleiの『Padurea Spanzuratilor(1964年)』。第1次世界大戦を背景に20世紀初頭のルーマニア社会を描いた。同監督は1965年にカンヌ国際映画祭(60th Cannes Film Festival)で最優秀監督賞を受賞している。

 WCFはジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)、カルティエ(Cartier)、カタール航空(Qatar Airways)などのスポンサーを受けて、運営される予定だ。(c)AFP