【4月22日 senken h】日本でセレクトショップというカルチャーが生まれて約40年。今や全国にお店があり、駅や高速道路、ECショップも当たり前。扱うのも洋服だけでなく、食や音、アートに他業種とのコラボレーションなどライフスタイルをトータルでカバーする。

 注目企業になり、店舗も社員もオリジナル商品も増えて、新しいチャレンジや課題にも直面する進化の時期でもある。そんなセレクトショップの成長と未来を実感してきた次世代メンバーたちが今の思いを語る「セレクトショップ論」。人気セレクトショップの次世代を担う30代リーダーが本音で語る、「明日のセレクト」とは――

■次世代たちの思い――今、セレクトってどうなっている?

―野田(ベイクルーズ 取締役 コミュニケーション統括チーフディレクター):渋谷・神宮前に昨年、コンセプトやバイイングから携わった新セレクトショップ「ウィズム(WISM)を作って久々に結構店頭に出ています。すると実際自分が思っていたイメージと、今のお客様の趣味嗜好が全然違った。お客様が保守的じゃなく、普通のモノよりとんがったものが売れる。「これが売れるだろう」と僕たちが常識にしていることとかデータが必ずしもそうじゃないのかと感じますね。

―齋藤(アーバンリサーチ プレス・マーケティングマネージャー):僕も「URBAN RESEARCH Metro Shop」(アーバンリサーチグループの駅ナカポップアップショップ)を出店した時は毎日店頭に立ちましたが、お客様の目に止まっていると思っていたモノがそうではなかったり、実際に売れるものが違っていたり。ズレを再確認しましたね。

―野田:そう。もしかしたら視野が近視眼的になっていたなとも感じますよね、現場にいると。

―土井地(ビームス コミュニケーションディレクター):やっぱりお客様との接点が一番近いのはお店であり主役はスタッフ。でもセレクトショップが成長して大きな企業になって、なかなか店頭のリアルな姿やライブ感みたいなものが本部に伝わりづらい、っていうのは感じますよね。ビームスも昨年からは店頭を主役に盛り上げる取り組みが一番重要テーマになっていますね。

―田中(ナノ・ユニバース プレスマネージャー):良く分かります。おかげ様で僕らはECが好調ですが、ウェブで洋服を買うのも、お店の良いイメージがあるからこそ。最近、「お店がライブ会場で、オンラインショップがCD」だと思っているんです。ライブ(お店)が良かったからCD(ネットショッピング)を買う、そしてその音を聞くとライブ(お店)の映像がよみがえってくる。そんな風にお店で何か良い経験した方がECで買ってくれる。

■セレクトショップの課題――洋服がサブカルに?

―土井地:店に来てもらえるかどうか、という所でセレクトの大きな変革期だと思うですよね。この前とある対談で、若い起業家の方に「サブカルがあまり得意じゃないんで、セレクト業界の方と何を話して良いか分かりません」って言われたんですよ。若い人にとって洋服がサブカルになっているんですよね。漫画やゲーム、アイドルと同じように、「洋服好き」という一つのジャンルでしかない。これまでみたいに服が好きな人たちが当たり前にいて、服だけを提案していれば良いのではなくて、服を好きになるきっかけも含めてファッションを提案しないといけない。それが、モノからコトへ、とかライフスタイル提案っていう流れだと思う。その意味でこれまでのように「ファッションアイテムをセレクトする」という概念を超えていかないといけない。だから昨年からビームスでは「昨日の自分を超えてるか?」というのをテーマに、セレクトショップという概念を捨てると社内に言っているんです。

―齋藤:それはすごく感じますね、僕も。駅ナカみたいに老若男女が通る場所にいるとよく分かる。利便性=便利で買いやすいお店というのは元々セレクトショップの発想の中にはあんまりなかったじゃないですか。でも今は、利便性を求める人とコアな消費を求める人の両極がありますよね。ファッションにマニアックで、深い価値を求める人はこれまでのセレクトの顧客で駅から遠くても来てくれる。でもその層が確実に大きくいる時代じゃないとすると、そこだけでセレクトは成り立たない。利便性を求める人にも知ってもらえたら次のマーケットが広がるし、その人はまた次の新規層も口コミで広げてくれる可能性が非常に高い。ブランドの成長過程でどちらを何パーセントでやるか、バランスを考えなきゃなと思っています。今のアーバンでは広げる方に重点を置き、看板をとにかく大きく、遠くまで見えるような出店の仕方をしています。広がった上でここにしかない価値も深掘りしようと思っています。

―野田:服がメジャーカルチャーからサブカルチャーになっていると僕も思いますね。そこにセレクトが直面して、進化する過程でもあると思う。その進化のポイントは僕らにとって今プロダクトです。マーケティングの「4P」の中で、プライスとかPRってみんなちゃんとやっているじゃないですか。残りの2つ、プロダクトとプレイスの多様化の時代ですよね。アーバンさんはプレイス(出店場所)で、僕らはプロダクトを広げる方向ですね。それが「J.S. バーガーズ カフェ」のバーガーとかパンケーキみたいな飲食ショップでもあるし、例えば「ジャーナルスタンダード」の服を着てハンバーガーを食べている姿って自然に想像できると思うんですよ。そこに次のフィールドがあると思う。セレクトショップのコアコンピタンスは選球眼。いろんな物に詳しくて、好きで、セレクト・エディットする力がある。そういう人間が大量に集まった集団って他にないと思うんですよ。だから、その目利き力こそ僕らが提供する価値の根本じゃないかって思っていますね。

―田中:それが多分、SPA(商品の企画・生産から販売まで自社で手がけること)化とかバイイングとオリジナルの比率みたいな問題も突破するかもしれないですよね。近頃はどこもオリジナルの商材が多くて、昔のセレクトを知っている人にすると「セレクトじゃないじゃん」という感じがあるかもしれないですが、今の時代、昔ながらの「ザ・セレクト」では立ち向かって行けないと思うんですよね。僕は古着屋でさえオリジナルを作っていた時代に服を買ってきた世代です。なので正直セレクトショップっていう言い方はどうでも良くて、今のお店の形態が当たり前だと思ってきましたし、セレクトショップって服をセレクトしているっていうよりも、セレクトしてくる力、この店がセレクトしたモノゴトならっていう安心感を与える場所なんじゃないかって思っています。

■次のステージへ――セレクトを超えたセレクトとは!?

―齋藤:今日のテーマは「明日のセレクト」ですが、そう思って考えたらセレクトショップが今のままなら、やっぱり人気ショップでい続けることは難しいと思いますよね。セレクトという考え方を一度再構築して、価値と利便性、この2つを残しながら売る手法をある程度身に着けるべきだと感じますね。モノをセレクトするのはもちろん、買い方をセレクトするっていうのもひとつの方法かなと。お客様の買いたい方法に合わせたセレクト。店でも駅でも、ネットでも、他にもあるだろうし。物流も含めてしっかり整備して、それができるかできないで大幅に変わってくると思います。

―土井地:モノからコト、そして今はヒトの時代ですよね。セレクトの目利き力とも通じるけど、入社1年目の子でさえ、目利き集団の一員であり、モノ好きというコミュニティーのひとりなんですよね。モノをセレクトするショップからカルチャーをセレクトするショップ、そしてそんなカルチャーコミュニティーへ。その根幹が人だと今、考えています。同じモノでも、この店で買いたい、さらにこの人から買いたい。そんな価値を持つ集団にセレクトがなっていくイメージです。全国にスター販売員を作るようなマーケティングと組織作りに力を入れていくつもりです。新規事業として、「トーキョー カルチャート byビームス」に続いてさらに濃いこと、面白いことをビジネス先行ではなく手掛ける。そんなことをやるからこそ面白い人が社員・お客様ともに集まりコミュニティー化していく。立場とか関係なく、楽しい事やりたい人はこの指止まれ、って感じの組織作りがポイントですね。

野田:日本のセレクトショップってすごく特殊な文化で、世界中の良いモノを知っている人たちがこれだけいっぱいいるって、他にないことですよね。僕には夢があって、次の世代、日本が世界から憧れられるライフスタイル先進国になってくれればと思っています。色んなエッセンスを集めて組み合わせて新しい価値観とライフスタイルを作ること。それが日本の財産になって、次の世代がそれで世界で活躍するくらいに。服屋がカフェもやるし、駅にも出るし、音楽も売るし、アートも扱うし、ネットで便利にも買える。こんなことも日本のセレクトならではじゃないですか。だからどんどん目利き力を色んなジャンルに広げて行くべきだし、自前でできなければ協業(コラボレーション)でも良い。そんな風にしてセレクトショップを日本の未来につながる文化にできたら良いなって感じですね。

―田中:他企業とこれだけコラボをできるのも確かにセレクトならではですよね。それはきっとセレクトショップというフィルターがひとつのブランドになっているからだし、それをもっと磨くために大事なのは、真似事や他の追随ではなく、利益が少なかったり先行投資が必要でも一番早くやること。フレキシブルに動くこと。面白いことをスピーディーに柔軟にやる、それがある意味セレクトらしさでもあるし、そんな場所(お店)には人が集まりますよね、きっと。(敬称略)(c) senken h