【11月26日 senken h】今、世界では衣料品の安心・安全が大きな関心事。なぜなら、毎日体に直に触れる衣料品は、食べ物と同じように、健康に大きな影響を及ぼすから。例えば、めったにアレルギーは出ないけど、ある服を着た時だけ、よく肌にブツブツができる、なんてことありませんか?

 洋服に使われている糸や生地、ボタン、ファスナー等に、人体にとって有害な物質を含むおそれがあることは今や、世界的な常識。日本はやや遅れ気味かもしれない。

 食の分野では、原料が安全であることを企業が証明する、おなじみのトレーサビリティがある。衣類も同様であるべきというのが、ファッションリーダーたちの考え方の主流になってきた。

 そんな中、今注目を集めるのが、ファッション界の「安心・安全の証明」とも言える「エコテックス」である。90年代前半にヨーロッパから発信されたエコテックス規格100認証は、今や世界で1万社を超える企業が取得している。健康に留意した安心・安全な衣類(繊維)の最前線を見てみよう。

■身近に潜むちょっとしたリスク

 少しでも安く、モノの良い洋服を買いたいというのが当たり前の消費者心理。そして企業側もニーズに応えるため、さまざまな知恵を絞ってコストダウンに努める。その過程で安全性が二の次になってしまうが、繊維産業の場合はどうか。いくつか例を挙げてみよう。

 コットンは、その元になる綿花(コットンボール)を収穫するときに枯葉剤というものが使われる場合がある。枯葉剤はその名の通り植物を枯らせるための農薬で、除草の目的で普通に利用されているものだ。また害虫駆除のための農薬も、良質なコットンを大量に収穫するためには必要である。

 洋服の機能を高めるための化学薬品類に目を向けると、日本でも厳しく使用制限されているホルムアルデヒド(いわゆるホルマリン)というものがある。シワになりにくい、寸法を安定させる、着心地の良い風合いにする、などの効果を与える。

 さらに、染色もちょっとした危険を含んでいる。生地を色鮮やかにする染色の材料には、鉛やヒ素も使う場合がある。

 これらは一例。1着の衣類に大量の有害物質が使われている訳ではないが、便利で快適な生活をするための「ちょっとしたリスク」ということだけは、覚えておいてほしい。

■欧州に比べ遅れる日本の対応

 ヨーロッパでは産業革命による環境破壊の反省から、有害物質に対する危機管理意識が進んでいる。衣料品についても、生地や染色・製造・加工に至るまで、人体に影響を与えないよう厳しい安全基準と規制が決められている。ヨーロッパは、ファッションの世界的発信基地でもある。それだけに、グローバルなブランドとしてのモラルも高い。

 一方、日本はやや遅れ気味だ。

 近年、発がん性が疑われて世界中で問題となっている「アゾ染料」がある。染料というぐらいだから、生地などに色を着けるときに使われるもの。他の染料と比べ色が鮮やかで、しかもコストがあまり掛からないため重宝されている。問題となる一部のアゾ染料に対して、ヨーロッパ諸国、そしてアジア地域の中国、韓国、台湾ではすでに法律で使用を制限している。日本でもこれに追随しようと、ようやく動き出したところだ。(発がん性が疑われるアゾ染料は全体の5%と言われている)

■安心・安全の衣類選択のために

 かと言って、日本のファッション界がまったく無関心であった訳ではない。世界共通の厳しい基準で衣類に含まれる有害物質をチェックしている企業も少なくない。

 有害物質の危険性、と言ってもピンとこないだろうが、発がん性をはじめアレルギーや皮膚炎・皮膚障害、呼吸器系への刺激、内分泌攪(かく)乱、肝臓障害などがある。原因物質は多岐にわたる。

 衣類に含まれるこれらの有害物質を検査するのが「エコテックス規格100」ヨーロッパ地域では「安心・安全の証明」として浸透している。

 エコテックスは今や全世界で活動しており、合格基準が厳しいため有害物質分析の最高峰とも言われる。日本にも分析施設があり、消費者の安心・安全に気を配るファッション企業は積極的に利用している。

 大ざっぱだが、衣類は糸から始まり、それが生地になって、染色され、そして縫い合わされて服になり、最後店頭に並ぶ。この服になるまでの過程で、エコテックスの厳しい試験を受けることによって、安全性が確立される訳である。エコテックスの試験に合格した生地、ボタン、ファスナーを集めて製品化する、というファッション企業もあるくらいだ。

 消費者の多様な選択を支えるための、「安心・安全」。ファッションを楽しむための基準の1つに、エコテックスを提案したい。(c)senken h