【7月31日 senken h】年を重ねてこそ人に深みが生まれるように、ともに歩んだ時間だけ風合いを増していくジュエリーを作りたい。香取亮さんと鴨下優子さんによる「ラスティソート」は、今までは珍しい鉄や日本の伝統技法を用い、手間と時間をかけ一つひとつのジュエリーと向き合い続けるブランドだ。

 その代名詞とも言えるコレクションが、ステンレススチールに「お歯黒焼き」を施した漆黒のジュエリー。興味を持ったのは金属加工全般を学んでいた専門学校時代、「こんなに面白い技法がなぜ商品になっていないのか」と純粋に思ったから。古くは刀などの錆(さ)び止めに使われたこの技法は、鉄の表面を焼いて黒い錆を付けるというもの。

 伝統工芸の古書から独学で技法を修得し1歩踏み出すが、米と研ぎかす、水に焼けた古鉄を入れ、発酵させて作るお歯黒液は熟成まで最低5年は必要。02年のブランド立ち上げから取りかかり、鉄素材でのキャストを請け負う工場探しにも苦労、安定生産できるまで8年かかった。また、工具自体がステンレスのため歯が立たず、湯道(鋳造の際にできる出っ張り)のカットなどは手で削らなければならないうえ、形ができた後もお歯黒液を塗ってバーナーで焼く作業を10回以上繰り返す。現在オーダーメードで3ヵ月と大変な手間がかかるのだ。「長く付き合い、錆びる工程まで楽しんでもらえたら」と語る。

 他にも艶やかで美しい七宝焼きを難しい立体形のデザインで実現させたほか、鉄の板にタガネで細かく目を刻み、金の箔(はく)を付着させる「布目象嵌(がん)」にも現在チャレンジしている。「眠っている技法をよみがえらせ、伝統工芸の新しい見せ方を作りたいです。面白いと一緒にやってくれる方も少しずつですが増えています」(香取さん)。

 今年3月に出展したパリの展示会「トラノイ」で、イタリアやロシアなど海外への販路も広げている。時代の波に飲まれない真っすぐな思いとクリエーションが、新しい扉を開いている。

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URL : http://www.rustythought.com
(c)senken h / text : 加藤陽美