【2月21日 MODE PRESS】結論からいえば、日本の伝統工芸世界から、ラグジュアリーブランドの2つや3つが生まれても、全く不思議はないはずだ。「エルメス(HERMES)」や「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」はじめ、多くのラグジュアリーブランドのルーツがクラフツマンシップであるという事実は、日本からなぜラグジュアリーブランドが存分に生まれてこなかったのか、という疑問をあぶり出す。

■日本からラグジュアリーブランドが生まれない理由

 その答えは、シンプルだ。ブランディングの欠如である。宝の山の上に立ちながら、足下の宝に気付かず、その価値を高めることもないうちに、マーケット力が低下したーーそうした現実から学べることは、いまからでも遅くはない、ハイセンスなクラフツマンシップの提案、伝統工芸世界の新たなブランディングを早急にすすめるべきである、ということだ。

 そうしたヴィジョンのもと、この3月6日から12日にかけて、新宿伊勢丹がリニューアルオープンをする機会に、本館4階の「センターパーク」にて、「FUTURE FORMAL~大人が美しいドレススタイル」というイベントをキュレーションする機会を得た。トレンドを追いかけるというより、自分のスタイルを求める、極めたいと考える大人の女性のために、アイデンティティあるスタイルを提案するフロアであり、そこでフォーマルウェアの未来型を提案しようという企画だ。

■真のおしゃれ心

 昨今、ミシェル・オバマ(Michelle Obama)夫人やキャサリン妃(Catherine, Duchess of Cambridge)の装いを見ると、フォーマルな場でも、個性を活かした、メッセージ性の強い装いを極めている。明らかに自国のクリエイターを指示、支援するメッセージが、スタイリングに秘められている。そしてそのことが、メディアの注目を集めてもいる。フォーマルウェアというと、えてして型にはまった装いにはまってしまいがちだが、フォーマルな場にこそ、自分らしいスタイルを表現するというのは、真のおしゃれ心を感じさせる。

 「FUTURE FORMAL」イベントで紹介するのは、会津塗りのバッグやネックレス、藍染めストール、西陣織のパーティバッグ、桐生の刺繍ネックレス、パールアクセサリー、有田焼のブローチなど。これら、日本の伝統工芸、資源が生み出したアクセサリーを、「マイ・プチ・ブラック・ドレス」に合わせよう、というのが、ここでの提案だ。自分に似合うプチ・ブラック・ドレスを選び、着こなしたうえで、日本生まれのアクセサリーを輝かせるーーそれは、ひと味違う知的で、品格あるドレススタイルだ。

■ハイセンスなクラフツマンシップ

 たとえば、藍染めアーティスト、Tatz Mikiによる、藍染めストール(写真上)は、トップモードにも違和感なく溶け込む。藍染めといえば、和装に似合うもの、地味なもの、という印象があるが、Tatz Mikiのストールは、風合いと輝きのあるワイルドシルクに藍染めが施されているため、身にまとうととてもエレガントな表情を見せる。近年、抗菌作用やUVカット効果がうたわれ注目を集める藍染めだが、ブラックドレスと合わせると、品格ある輝きを放つ。その繊細にして奥深い輝きは、自然観や宇宙観までをも含む日本の美意識の産物といえよう。

 デザインの進化が戦前でストップしてしまい、戦後は美術館や百貨店のギャラリーに飾られるか、お土産物屋さんに押しやられてしまった伝統工芸は、いまこそデザイン革新をすすめる重要な節目にさしかかっている。そのときに、大きな原動力のひとつとなるのが、ファッションではないかと思う。ラグジュアリーブランドから学ぶ「ハイセンスなクラフツマンシップ」、この方程式こそが、日本の伝統工芸世界に「未来の伝統」をもたらすと信じている。(完)【生駒芳子】

プロフィール:
ファッション・ジャーナリスト/アート・プロデューサー。東京外国語大学フランス語科卒業。 フォトジャーナリストとして旅行雑誌の取材、編集を経験。 その後、フリーランスとして、雑誌や新聞でファッション、アートについて執筆/編集。1998年よりヴォーグ・ニッポン、2002年よりエルジャポンで副編集長として活動の後、2004年よりマリ・クレール日本版・編集長に就任。2008年11月独立。ファッション、アート、ライフスタイルを核として、クール・ジャパン、社会貢献、エコロジー、女性の生き方まで、幅広く講演会出演、プロジェクト立ち上げ、雑誌や新聞への執筆に関わる。工芸ルネッサンスWAO総合プロデューサー、クール・ジャパン審議会委員、公益財団法人三宅一生デザイン文化財団理事、NPO「サービスグラント」理事、JFW(東京ファッションウィーク)コミッティ委員など。エスモード・ジャポン講師、杉野服飾大学大学院講師を務める。
(c)MODE PRESS

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