【1月21日 MODE PRESS】気付けばここ最近、自分の服装がどんどんシンプルになってきているように感じます。以前は洋服もアクセサリーも重ね着・重ね付けして様々なアイテムをたっぷりまとっていたのですが、今ではワンピースやシャツ一枚にちょっとポイントでアクセサリーを加えるくらい。別にオシャレに関心が無くなったワケではないのですが、ピアスやネックレスも存在感のある重たいものよりも、身に着けているのを忘れてしまうような軽やかなものを求めるようになっています。

■軽やかであるということ

 あくまで個人的な見解ですが、沢山のアイテムを組み合わせ、それらのデザインやカラー、コーディネートを楽しむという「視覚的」なファッションの魅力よりも、洋服そのものの質感や素材感、靴の履き心地などを楽しむという、「感覚的」なファッションの魅力のほうに(歳と共に!?)興味がシフトしているような気がします。

 言われてみれば、近年の健康志向も手伝ってか、食やワインも全体的に軽やかなスタイルが求められているように思います。和食ブームは米国や欧州のみならずアジアにも広がっていますし、フランス料理も素材の美味しさを最大限に引き出すための、削ぎ落とされた調理法や味付けを求めるシェフが増えています。その流れに追随するように、消費者が好むワインのタイプも変化しているよう。

 たとえば新樽の豊かなアロマを豪快に放つカリフォルニアのボリューミーな赤よりも、凛とした酸とミネラルが特徴のアルザスやオーストリアの爽快な白ワインに関心が高まっているのだとか。実はそうした世界的な“冷涼系志向”は我が国にとっても前向きなハナシで、今こそ日本が誇る甲州ワインを海外に発信するチャンスとなるかもしれないのです。

 しかし、何から何まで「軽快」であればいいのかと言えば、きっとそれは違うはず。では、いま我々が食のシーンに求めているものは何なのでしょうか……。その答えを、次にご紹介する二軒の飲食店のコンセプトから、探ってみたいと思います。

■“グローバル・コンフォート”を目指す店

 まず注目してみたいのが、代官山「DAIKANYAMA T-SITE」内の「IVY PLACE」。ここは、いま話題の「CICADA」や「T.Y. HARBOR BREWERY」など話題性のある飲食店を展開するティー・ワイ・エクスプレス株式会社が手掛ける、カフェ・ダイニング・バーの一体型レストランです。緑豊かな街並みに調和した別荘のような空間はもちろん、朝7時から深夜2時まで、1日を通して利用できる利便性の高さも魅力。打合せなどでちょくちょく利用させていただきますが、席はいつも満席で、店内は常に気持ち良い活気に満ちています。

 犬の散歩ついでにカフェで朝ごはん、ダイニングで接待ディナー、バーで食後酒……といった幅広いシーンへの対応が、明確なゾーニングにより可能となっているのです。食事は“グローバル・コンフォート・フード”がテーマ。世界の美食を堪能したグルマンたちが最終的に欲するような、心と体に優しい料理を目指しており、ジャンルや国籍にとらわれない、独自の美味しさを追求したメニューが並びます。空間や料理を既存のテーマで括らず自由度を高めることで、人々の多様なライフスタイルを受け入れる店づくりがなされているのです。

■六本木の“ユージュアルダイニング”

 さて、もう一軒ご紹介したいのが、昨年末にオープンしたばかりの「CROSS TOKYO」。六本木ヒルズからほど近い、けやき坂と芋洗い坂がちょうどクロスする場所に位置しています。目を惹くのは森田恭通氏が空間デザインを手がけたという開放的で煌びやかな空間。つい特別なシーンを連想してしまいそうな高揚感に誘われますが、目指すのはあくまでも“ユージュアル(日常)ダイニング”なのだとか。

 “究極な一皿ではなく、日常の一皿を。特別な一瞬ではなく、日常の一コマを……”というコピーからも、普段の何気ないひとときを大切にする同店の姿勢がうかがえます。供されるのは、イタリアンとフレンチをベースに日本人の感性が加わった同店独自の料理の数々。中でも印象的な「リゾットジャポネーゼ」は、旨みが身体に自然に染みわたっていき、どこまでも軽やか。〆に毎日でも食べたくなる、滋味深い味わいです。

 では、ご紹介した2店舗の共通項は何なのでしょう?まず、訪れる人の多様なライフスタイルに順応する柔軟性をもっていること。そして、日常生活における「心地よさ」を意識していることが挙げられます。つまり、自分らしい生き方を実現している個性豊かな人々が、其々のシーンに自然体で馴染めるような包容力を、この2軒は持っているのです。

 無理をせず、欲張り過ぎず、心と体が求めるものを素直に欲する――これこそ、現代人が求める「軽やか」な生き方であり、その需要を満たしてくれる感度の高い飲食店の登場がいま、食やファッションに軽快志向をもたらしているのかもしれません。【瀬川あずさ】

プロフィール:
聖心女子大学卒業後、施工会社の秘書を務め、飲食店の企画、設計、施工業務に携わりながら、レストラン巡りに没頭する。その後趣味が高じて、フードアナリ ストならびにワインエキスパート資格を取得。現在は、記者・ライター業、ワインスクール講師、飲食店メニュー開発などを務め、食を通じた豊かなライフスタ イルを提案するべく活動中。
(c)MODE PRESS

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