【9月13日 MODE PRESS】「アンドロジナスなランウェイミュージックって?!」13年春夏の傾向として避けて通れないのが、「アンドロジナス」だろう。前シーズンの象徴的な男らしさから一転したかのようなナイーブなフォルムに誇張させないシルエット。中性的というよりは、むしろ社会と云う呪縛から解放されるような鮮明で清らかなもの。リアルクローズなんて生易しい言葉では、語ることができない現代の普遍的要素かもしれない。ここではその「アンドロジナス」をどう音楽で表現したかを探ることにしよう。ミラノ・パリファッションウィークから3メゾンを取上げてみたい。ミニマリズムの覇者たちの思想はいかに?!

■続いて、ジル サンダー

 創業デザイナー ジル・サンダー(Jil Sander)が、およそ8年ぶりにブランド復帰したコレクション。こちらもプラダ(Prada)同様「アンドロジナス」な作品を発表し、ステージも純白で仕上げている。素材、ディテールの違いを様々な組み合わせでみせ、どれも独自のフォルムとミニマルラインをうちだしておりジル・サンダー特有の構築的なシルエットである。

 カラーは、ブルー、ブラック、白、ベージュ、の他、近年多用している赤や黄など原色を展開。ニットには、デュッセルドルフ芸術アカデミーでの伝説ヨーゼフ・ボイス(Joseph Beuys)(ドイツの現代美術家、彫刻家、教育者、社会活動家)クラスに所属したブリンキー・パレルモやロバート・マンゴールドからインスピレーション得たグラフィックが登場している(受講生の中にはゲルハルト・リヒター、ジグマ・ポルケ、アンゼルム・キーファーら、ドイツ美術を支える画家たちもいる)。幾何学的形体を様々に組み合わせることによってモードの可能性を探求した、ジル・サンダーの世界感だ。

 さて使用された楽曲を解説すると、深いヒプノティックグルーヴからはじまるミニマルトラックである。ジャーマンテクノの重鎮マルセル・デットマン(Marcel Dettmann)とベン・クロック(Ben Klock)による「DAWNING」だ。どこまでも続くような反復されるリズムがウォーキングするモデル達とかさなる。そこにブライアン・イーノ(BRIAN ENO)の哀愁感ただようピアノ鍵盤音が響きわたる。楽曲「THIS RIVER」のフレーズだ。(1977年に Cluster の Roedelius, Moebius と Brian Eno が共同名義で発表)このミニマルトラックと哀愁感ただようピアノフレーズは幾度となく繰り返され、さらなる展開へと進行する。

 それはブレイク部分にて使用されている、同じブライアン・イーノの「THIS RIVER」のフレーズを用いたアルヴァノト(ALVA NOTO)&坂本龍一(RYUICHI SAKAMOTO)氏のトリビュートカバーヴァージョンだ。哀愁感ただようピアノ鍵盤音がグリッチ音に変わり、より緻密なデザインの印象を与えている。それはあたかも完璧なものをあえて破壊するような現代美術にも似た感覚だ。ショーは、このヴァージョンの違うフレーズを一直性に引かれたミニマルトラックに、使い分けてエディットし成り立っている。

「DAWNING」~「THIS RIVER:Version BRIAN ENO」~「DAWNING」~「THIS RIVER:Version
ALVA NOTO&RYUICHI SAKAMOTO」~「DAWNING」~「THIS RIVER:Version BRIAN ENO」~「DAWNING」~「THIS RIVER:Version BRIAN ENO」~「THIS RIVER:Version BRIAN ENO」

 コレクションの主軸は、「THIS RIVER」のフレーズということだ。深いミニマルトラック「DAWNING」が強さの象徴であるならば、「THIS RIVER」のフレーズは優雅さをあたえているようだ。徹底的に削ぎ落とされたミニマルスタイルの神髄ともいうべきか。

 こうしてプラダと比較するとまったく違う「アンドロジナス」を表現している。かたやBBというアイコンを主軸としているが、ヴォーカルや曲の大きな展開などは一切なく「THIS RIVER」が奏でる哀愁の鍵盤の響きだけで「アンドロジナス」を成立させている。ここで手掛けたミュージックデザイナーを紹介しておこう。プラダ同様に古くからジル・サンダー携わっている、いわずと知れたフレデリック・サンチェス(Frederic Sanchez)である。プロフィールなどは次の機会にするが、エクスペリメンタルな構成を得意としている。(3)に続く。【佐藤喜春】

プロフィール:
1986年より選曲に従事する。1991年より東京コレクション、2002年よりパリコレクションをそれぞれ手掛けるようになる。多くの国内外のブランドのコレクションやパーティー、エキジビション、ジュエラー、ビューティ、エディトリアルのサウンドプロデュースを行なう。
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