【9月12日 MODE PRESS】「アンドロジナスなランウェイミュージックって?!」13年春夏の傾向として避けて通れないのが、「アンドロジナス」だろう。前シーズンの象徴的な男らしさから一転したかのようなナイーブなフォルムに誇張させないシルエット。中性的というよりは、むしろ社会と云う呪縛から解放されるような鮮明で清らかなもの。リアルクローズなんて生易しい言葉では、語ることができない現代の普遍的要素かもしれない。ここではその「アンドロジナス」をどう音楽で表現したかを探ることにしよう。ミラノ・パリファッションウィークから3メゾンを取上げてみたい。ミニマリズムの覇者たちの思想はいかに?!

■まずは、プラダ

 ステージデザインは2000年からコラボしているレム・コールハース(Rem Koolhaas)率いるシンクタンクOMA・AOMによるデザイン。(これまでもミュウッチャとは多くのプロジェクトで関わっているがどれも素晴らしい。むろん、ショップやステージ デザインといったものもそうであるが、特に建築の枠を外れたルックブックに目を奪われる。アウトサイダーアートを解釈したような、実に独創性に満ちている)

 ライティングトラスまで覆われた見渡す限り純白な世界に、起伏のあるステージ。(「ホワイト ステージ」これは取り上げる3メゾンすべてに共通している)無機質ではあるが、この起伏がやわらかい中性的な曲線美と未来感を提示しているようだ。モデルは女性も起用し、どれもシンプルかつスポーティであり、ためらいがない。

 イントロからは、当時恋仲だったセルジュ・ゲンズブール(Serge Gainsbourg)が彼女のために作り話題となったブリジッド・バルドー(Brigitte Bardot) (以下BB)の「Contact」からはじまる。おそらくFormat B by Visual Idolsかmarvel'sが手掛けたヴァージョンに途中SE(Sound Effect)をかぶせていると思われる(余談ではあるが、のちにジェーン・バーキン(Jane Birkin)のデュエットで、世界中で大ヒットした「ジュ・テーム・モア・ノン・プリュ」は、BBのために書かれた曲である。「私のために、あなたが想像出来る一番美しい歌を書いて」という一言でかかれた曲のひとつだ。当時既にギュンター・ザックス・フォン・オペル氏と結婚していた彼女が世間体を考え発売中止の追いやったいわくつきだ。元来モデル/女優になったのも自身の美貌を世に知らしめるためというというのも何とも彼女らしい)。

 そこから変則的なブレイクをかぶせていくのだが、ここからが今回の重要要素である。1963年製作・公開されたジャン=リュック・ゴダール(Jean-Luc Godard)監督によるフランス・イタリア合作の長篇劇映画『Le Mépris』での冒頭の睦言のセリフをフュチャーしているところだ。女優役カミーユ・ジャヴァル(BB)と脚本家役のポール・ジャヴァル(ミシェル・ピッコリ)の二人の男女が織りなす情交とジョルジュ・ドルリュー特有の叙情的なメロディー。

Camille: Tu vois mes pieds dans la glace ? (鏡越に私の足が見える?)
Paul: Oui. (ああ。)
Camille: Tu les trouves jolis ? (きれいだと思う?)
Paul: Oui, très. (すごくきれいだよ。)
Camille: Et mes chevilles, tu les aimes ? (私の足首は好き?)
Paul: Oui. (ああ。)
Camille: Tu les aimes mes genoux, aussi ? (ヒザも好き?)
Paul: Oui, j'aime beaucoup tes genoux. (ああ、とても好きだよ。)
Camille: Et mes cuisses ? (太ももは?)
Paul: Aussi. (もちろん好きさ。)
Camille: Tu vois mon derrière dans la glace ? (鏡にお尻は映ってる?)
Paul: Oui. (ああ。)
Camille: Tu les trouves jolies mes fesses ? (私のお尻はキレイだと思う?)
Paul: Oui... très.(ああ ともて。)
Camille: Et mes seins, tu les aimes ? ( ひざまずいてみようか?)
Paul: Oui, énormément.(いや そんは必要はない。)
Camille: Qu'est-ce que tu préfères: mes seins, ou la pointe de mes seins ?
(わたしの胸は好き?)
Paul: Je sais pas. C'est pareil.( ああ 好きだよ。)
Camille: Et mes épaules, tu les aimes ? ( 優しくして。)
Paul: Oui. (ああ。)

 そう、イントロからの「Contact」もしかり「Le Mépris」しかりキーワードは男と女が織りなす楽曲!フレーズ使用しているのだ(むろん「Contact」はBBだけで歌っているが、セルジュ・ゲンズブールという男の影が見え隠れしている)。コレクション種別としての「アンドロジナス」というテーマ性を、BBを主軸に構成しているわけである。ただし最も女性的な趣があるBBの楽曲フレーズを使用してはいるが、この後につながるエイフェックス・ツイン(Aphex Twin)ことリチャード・D・ジェームスの「Metal Grating」、「Polynomia-C」を入れる事によりスポーティさ、空間的強さ、何よりもショーアップされた印象を与えている。

 サントラからのセリフとSE(Sound Effect)の組み合わせは、最近よく耳にするランウェイミュージックのテクニックではある。しかし、これはまったく違う時間軸でおこなっている。極端にいってしまえばこの4つのフレーズ(「Contact」、「Le Mépris」、「Metal Grating」「Polynomia-C」) の原曲を切り刻み、並べ変え、まるで服を仕立てるように15分のランウェイミュージックにしているということだ。つまり「Contact Version A」~「Le Mépris Version OST」~「Metal Grating」~「Contact Version B(Maed remix)」~「Polynomia-C」~「Le Mépris Version Instrumenntal 」~「Le Mépris Version OST」~「Contact Version A」

 それぞれのフレーズには細かくSE(Sound Effect)が重ねられており、曲と曲のつなぎにもそれ相当な工夫が凝らされている。「Le Mépris」のセルフにエフェクトがかけられ、「Contact」のフレーズがエディットされ、次のイントロメロディーのメインフレーズに持ち込まれている。一つとしてオリジナル音源をそのまま使用することなく何かしらの音源を重ねて制作している。

 一見するとストレートな解釈と捉えられやすいが、ここで仮に他のアーティスト楽曲を使用していたらどうだろうか。またインストルメンタル(Instrumenntal)だけで構成していたらどうだろうか。まったく平坦な空間になり、ファッション性を担っていただろうか。時代を超越したファッションアイコン“BB” であるがゆえの、フレッシュで(ロリータ解釈省く)グルーヴィーな感覚が際立つ事でコレクションミュージックとして成り立っているのだろう(コレクションの舞台がミラノ・パリなら成り立つが、東京でセリフまで使用するのはいささか疑問だが)。

 いずれにせよ今回、BBがイメージソースであったかは定かではないが、ミュウッチャ・プラダと音楽制作者側との深い信頼関係でコレクションミュージックとして使用されたことは間違いない。ミュウッチャ・プラダにとって「アンドロジナス」とはいったい何だったのか。もしかするといつの時代も、服作りにおいて男性も女性もないのかもしれない。そこには服を身にまとうという原始的人間欲求から解放され、知的までの向上心から湧き出るクリエーションのなかから生まれたものなのかもしれない。

 「Le Mépris」の冒頭に出るアンドレ・バザン(戦後フランスで影響力の大きかった映画評論家。「ヌーヴェルヴァーグの精神的父親」と称され、かの「大人はわかってくれない」を撮ったフランソワ・トリュフォー(Francois Truffaut)が少年鑑別所を出た10代の頃、引き取って面倒をみていたことでも知られる)の言葉を借りるならば「映画とは欲望が作る世界の視覚化である」「モードとは欲望が作る世界の視覚化である」 (2)に続く。【佐藤喜春】

プロフィール:
1986年より選曲に従事する。1991年より東京コレクション、2002年よりパリコレクションをそれぞれ手掛けるようになる。多くの国内外のブランドのコレクションやパーティー、エキジビション、ジュエラー、ビューティ、エディトリアルのサウンドプロデュースを行なう。
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