第5回日本ファッション・ウィーク、積極的な海外発信
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【東京 6日 上間常正】来年の春夏物の新作を発表する世界のファッションウイークのトップを切り、ニューヨークに先立って東京コレクションが、8月29日から9月5日まで8日間の日程で開かれた。
日本はアメリカと並ぶ世界最大のファッション市場だ。国内のファッションブランドの活動も活発で、東京のファッションウイークはミラノと同じころ、1980年代から盛んに開催されてきた。
それにもかかわらず、東京ファッションウイークはこれまで世界のメディアやバイヤーたちからほとんど注目されなかった。海外からの客もほとんど集まらず、外国にその内容が報道されたこともあまりなかった。
■東京ストリートからゴスロリまで
だが、東京発のファッションには、世界から注目されているいくつかの要素がある。まず世界で最も活発といわれる若者のストリートファッションを背景にしたブランド。
最近はパリやロンドンなどの若者から注目されている日本のアニメーションやマンガなどとも共通するファッションスタイルがその一つ。エイチナオト(h.NAOTO)は、ヨーロッパのゴシックと日本の「かわいい」を融合したゴシック・ロリータと呼ばれるスタイルをファッション的完成度の高い水準で表現した。
ガッツダイナマイトキャバレーズ(GUT’S DYNAMITE CABARETS)のように、ゲイやドラッグクイーンのファッションをエレガントにミックスしてしまうブランドもある。ソマルタ(SOMARTA)はゴシックな要素を「エングレイバー」というタイトルで、移ろいやすいファッションを記憶に刻み込むような強い表現を提案した。
■自在なミックス感覚
オートクチュールの伝統を背景にエレガンスにこだわる傾向が抜けないヨーロッパのブランドに対して、アバンギャルドなファッションとポップで自在なミックス感覚を打ち出すのが東京ファッションの大きな特徴だ。
メルシーボークー、(mercibeaucoup,)というポップな名のブランドは、テーマの「星」をさまざまにデフォルメした楽しいカジュアルウエアを発表。最後にデザイナーがモデルと一緒に「節約」を訴える日本の伝統的な祭りのダンスを踊った。
「ルーシー」と呼ばれる人類の祖先の猿人をテーマにした、アフリカ調のエスニックな服や、「モロッコ」をモチーフにした北アフリカスタイルを発表した若手ブランドもある。こうした若手デザイナーたちは、ポップなストリートファッションと同時に、三宅一生や川久保玲、山本耀司など世界のアバンギャルドなファッションをリードした日本の先輩デザイナーたちの影響も強く受け継いでいる。
■日本の「伝統」と「技術」
アバンギャルドの先輩たちが実は日本の古い衣装文化を応用したのと同じように、いまの若手デザイナーたちにも日本的要素を打ち出している。まとふ(matohu)という男女二人組みのブランドは、15世紀の日本の陶器の色彩と感触を服によみがえらせた新作を発表した。日本の四季の微妙な色の変化や自然の移ろいを表現した手描きプリント柄が、日本のハイテクな繊維技術にも支えられて再現された。
世界でもトップレベルの日本の合成繊維を使った機能的でスポーティーな服もあれば、ベテランデザイナーによる世界的水準のシックでエレガントな服ももちろんある。
■積極的に海外へ発信
東京コレクションが注目されなかったのは、欧米から遠く離れていることと、開催時期が遅かったためだ。ニューヨークから始まって、ロンドン、ミラノ、パリと続く世界のファッションウイークのあとでは、バイヤーたちは予算を、ジャーナリストは精力を使い果たしてしまう。日本のファッションに興味はあっても、パリの後に飛行機で12時間もかけて東京まで出かける気にならなくても当然だった。
いまでは年間約8兆円という日本の高級ファッション市場は、その多くが欧米のラグジュアリーブランドに占められる状態になっている。そんな状況を打開するために、日本の経済産業省や大手アパレル企業などが一丸となって、2年前から日本ファッションウイークの組織運営に参加。今回は世界で最初に開催して、東京発のファッションを積極的に海外に向けて発信しようとし始めたのだ。
■野田謙司CFD議長、海外メディアの目
今回のファッションウイークについて、参加デザイナーたちの団体である東京ファッションデザイナーズ協議会(CFD)の野田謙司議長は「我々の当面の課題は、パリ・ミラノとは異なる特性だ」と語る。「もし東京がアジアの中心としての地位を固められるなら、世界からの注目は自然と高まってくる」
フランス人ジャーナリストのシルヴィ・メゾナーヴ(Sylvie Maysonnave)さんは、「若いクリエーターたちが東京の街を体現しながら作品を作っていると感じた」という。イタリアから訪れたソフィー・ルチエ・デウルフ(Sophie-Lucie Dewulf)さんは「ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)やコムデギャルソン(COMME des GARCONS)、イッセイミヤケ(ISSEY MIYAKE)のことは知っていたけど、日本には面白い若手デザイナーがいっぱいいるのね。ヨーロッパでもいけると思うわ」と語る。その一方で、「東京は面白い都市なのに、JFWには『ファッションらしい』雰囲気が欠けている。もっと街全体をまきこんだイベントを企画してみては?」と提案した。
東京ファッションウイークは徐々に注目を集めつつあるようだ。だが、フランスから来たあるジャーナリストがこんな質問をしていた。「パリやミラノのショーで最前列にいる日本のジャーナリストたちを、東京ではなんであまり見かけないのか」。世界に発信するためには、ます日本のメディアの意識改革も必要なのではないか。(c)MODE PRESS
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日本はアメリカと並ぶ世界最大のファッション市場だ。国内のファッションブランドの活動も活発で、東京のファッションウイークはミラノと同じころ、1980年代から盛んに開催されてきた。
それにもかかわらず、東京ファッションウイークはこれまで世界のメディアやバイヤーたちからほとんど注目されなかった。海外からの客もほとんど集まらず、外国にその内容が報道されたこともあまりなかった。
■東京ストリートからゴスロリまで
だが、東京発のファッションには、世界から注目されているいくつかの要素がある。まず世界で最も活発といわれる若者のストリートファッションを背景にしたブランド。
最近はパリやロンドンなどの若者から注目されている日本のアニメーションやマンガなどとも共通するファッションスタイルがその一つ。エイチナオト(h.NAOTO)は、ヨーロッパのゴシックと日本の「かわいい」を融合したゴシック・ロリータと呼ばれるスタイルをファッション的完成度の高い水準で表現した。
ガッツダイナマイトキャバレーズ(GUT’S DYNAMITE CABARETS)のように、ゲイやドラッグクイーンのファッションをエレガントにミックスしてしまうブランドもある。ソマルタ(SOMARTA)はゴシックな要素を「エングレイバー」というタイトルで、移ろいやすいファッションを記憶に刻み込むような強い表現を提案した。
■自在なミックス感覚
オートクチュールの伝統を背景にエレガンスにこだわる傾向が抜けないヨーロッパのブランドに対して、アバンギャルドなファッションとポップで自在なミックス感覚を打ち出すのが東京ファッションの大きな特徴だ。
メルシーボークー、(mercibeaucoup,)というポップな名のブランドは、テーマの「星」をさまざまにデフォルメした楽しいカジュアルウエアを発表。最後にデザイナーがモデルと一緒に「節約」を訴える日本の伝統的な祭りのダンスを踊った。
「ルーシー」と呼ばれる人類の祖先の猿人をテーマにした、アフリカ調のエスニックな服や、「モロッコ」をモチーフにした北アフリカスタイルを発表した若手ブランドもある。こうした若手デザイナーたちは、ポップなストリートファッションと同時に、三宅一生や川久保玲、山本耀司など世界のアバンギャルドなファッションをリードした日本の先輩デザイナーたちの影響も強く受け継いでいる。
■日本の「伝統」と「技術」
アバンギャルドの先輩たちが実は日本の古い衣装文化を応用したのと同じように、いまの若手デザイナーたちにも日本的要素を打ち出している。まとふ(matohu)という男女二人組みのブランドは、15世紀の日本の陶器の色彩と感触を服によみがえらせた新作を発表した。日本の四季の微妙な色の変化や自然の移ろいを表現した手描きプリント柄が、日本のハイテクな繊維技術にも支えられて再現された。
世界でもトップレベルの日本の合成繊維を使った機能的でスポーティーな服もあれば、ベテランデザイナーによる世界的水準のシックでエレガントな服ももちろんある。
■積極的に海外へ発信
東京コレクションが注目されなかったのは、欧米から遠く離れていることと、開催時期が遅かったためだ。ニューヨークから始まって、ロンドン、ミラノ、パリと続く世界のファッションウイークのあとでは、バイヤーたちは予算を、ジャーナリストは精力を使い果たしてしまう。日本のファッションに興味はあっても、パリの後に飛行機で12時間もかけて東京まで出かける気にならなくても当然だった。
いまでは年間約8兆円という日本の高級ファッション市場は、その多くが欧米のラグジュアリーブランドに占められる状態になっている。そんな状況を打開するために、日本の経済産業省や大手アパレル企業などが一丸となって、2年前から日本ファッションウイークの組織運営に参加。今回は世界で最初に開催して、東京発のファッションを積極的に海外に向けて発信しようとし始めたのだ。
■野田謙司CFD議長、海外メディアの目
今回のファッションウイークについて、参加デザイナーたちの団体である東京ファッションデザイナーズ協議会(CFD)の野田謙司議長は「我々の当面の課題は、パリ・ミラノとは異なる特性だ」と語る。「もし東京がアジアの中心としての地位を固められるなら、世界からの注目は自然と高まってくる」
フランス人ジャーナリストのシルヴィ・メゾナーヴ(Sylvie Maysonnave)さんは、「若いクリエーターたちが東京の街を体現しながら作品を作っていると感じた」という。イタリアから訪れたソフィー・ルチエ・デウルフ(Sophie-Lucie Dewulf)さんは「ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)やコムデギャルソン(COMME des GARCONS)、イッセイミヤケ(ISSEY MIYAKE)のことは知っていたけど、日本には面白い若手デザイナーがいっぱいいるのね。ヨーロッパでもいけると思うわ」と語る。その一方で、「東京は面白い都市なのに、JFWには『ファッションらしい』雰囲気が欠けている。もっと街全体をまきこんだイベントを企画してみては?」と提案した。
東京ファッションウイークは徐々に注目を集めつつあるようだ。だが、フランスから来たあるジャーナリストがこんな質問をしていた。「パリやミラノのショーで最前列にいる日本のジャーナリストたちを、東京ではなんであまり見かけないのか」。世界に発信するためには、ます日本のメディアの意識改革も必要なのではないか。(c)MODE PRESS
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