【東京 29日 上間常正】中国に進出したスウェーデンのアパレルブランド「H&M」が、開店以来の快進撃を続けている。今年3月に香港、4月には上海で2か所、いずれも直営の大型直営店が商業地の目抜き通りに相次いでオープン。これまでH&Mはヨーロッパやアメリカでしか買えなかったため、3つのニューショップは大きな注目を集め、開店当日の朝は長い行列ができた。中国の大型連休もはさみ、混雑ぶりは5月も衰えを見せていない。

■上海店オープンに客が殺到

 上海の商業地・准海中路に先月中旬オープンした1号店は、4フロアーの売り場で面積は計2200平方メートル。コスメティックを除くH&Mの全商品がフルラインの品揃えだ。この出店に合わせ、オーストラリア出身の人気歌手カイリー・ミノーグがデザイン製作に協力したビーチウエアの新シリーズが世界に先駆けて登場した。ほかにも、歌手マドンナが本格的にかかわった人気のマドンナシリーズなどのデザイン性の高い商品にも注目が集まった。

 そんな特別バージョンを別とすれば、スカートは数千円前後。ジャケットもせいぜい5千円ごろまで。中国の平均所得レベルからすれば必ずしも安くはないが、「ファッション性が高くて、手の届く範囲。こんな服が欲しかった」という上海のおしゃれな若いカップルらが詰め掛けた。

 開店前夜に上海・浦東地区の科学技術博物館で開かれたイベントパーティーでは、カイラー・ミノーグがゲスト主演。スワロフスキー・クリスタルが散りばめられた会場は、音楽と花火で華やかににぎわった。

■昨年売上高は1兆8900億円

 H&Mはストックホルムに本拠を置き、去年の売上高は約1兆8900億円の巨大アパレルだ。創業は1947年、デザイン性の高い商品をてごろな価格で供給することで着実な成長を続けている。
 この企業には注目すべき特徴がいくつかある。まず優れているのは、その充実したデザインシステム。スウェーデンの名門ベックマンズデザインカレッジの最優秀卒業生をはじめ世界中から集めた100人を超えるデザインチームが、世界中の街頭観察やトップデザイナーらとのコラボレーションなどの成果を共有し、その経験を蓄積している。

 デザインチームを率いるマーガレッタ・ファン・デン・ボッシュさんは、「我々が目指しているのは、誰もが買える範囲内での最高の品質とファッション性です」と語る。そのためには、チームはより多くの人と語り、旅をして新たな感性を磨くことが必要だという。
 「これまでの覇権主義的でエリート主義的だったファッションとは違う、もっと民主主義的な質の高さを追求していきたい」とボッシュさん。

■生産現場も貫く民主主義

 この民主主義の理念が、社内の組織運営にも、海外での生産態勢にも貫かれている。H&Mの製品は国内外約700の協力工場で生産されている。そのすべての場所で、環境への負荷と労働条件について定めた、ネット上でも公開している同社独自の基準を厳格に守る努力を続けている。
 H&Mのニルス・ヴィンゲIR統括責任者は「我々が提供する製品の製造過程が、それにかかわる人々や環境にどんな影響があるかについて常に責任をもっていなければならないからです」と説明した。
 最新トレンドのデザインを低価格で大量生産する「ハイストリート・ファッション」が、各国で人気を集めている。そうした中で、H&Mの企業精神を明確にした姿勢に大きな可能性が感じられる。(c)AFPBB News

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