【グランビル 24日 AFP】1947年に「ニュー・ルック(New Look)」と呼ばれたコレクションを発表し、ファッションに革命をもたらしたムッシュ クリスチャン・ディオール(Christian Dior)、彼の後を継ぎ20世紀のモード界における重要人物となったイヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)、今年60周年を迎えたメゾンの伝統を21世紀へと引き継ぎ、シーズン毎に強い影響力を発揮するジョン・ガリアーノ(John Galliano)。

■歴代デザイナーの作品が集結

 クリスチャン・ディオールというメゾンが生み出したモードの鬼才たちの作品が、一堂に集結する一大展示会「Exhibition at Dior family home spans 60 years of couture」が、ムッシュ ディオールの生誕地、フランス・ノルマンディ地方のグランビル(Granville)で開かれている。会場には前述した3人の他に、3代目マルク・ボアン(Marc Bohan)、4代目ジャンフランコ・フェレ(Gianfranco Ferre)を加えた5人の歴代デザイナーの作品が並び、ムッシュ ディオールが生み出した作品がどのように解釈され、次代のクリエーションに受け継がれてきたかを感じる貴重な機会を与えてくれる。

 どの作品が誰のものかを判断するのは容易ではない。ヴィンテージのような風合いのドレスが、ガリアーノの手掛けた最新コレクションだったり、いかにもモダンな印象のドレスがボアンの手による30年以上も昔の作品だったりするのだ。

■ムッシュ ディオールの別荘を改造した美術館

 眺めの良い断崖の上に建つ美しい邸宅―クリスチャン・ディオール美術館からは、海岸線やチャンネル諸島などが眺望できる。裕福な実業家だった父が1930年代に破産し、グランビル市によって買い取られるまで、この美術館はディオール一家の別荘として使われていた。その後、政府の事務所や都市公園となっていたが、10年前からディオール美術館となった。

■「色彩」に重点を

 今回の展示会では、作品が「色彩」ごとに配置された。米国誌のインタビューで「“黒”という色について本が1冊書けるほどだ」と発言したように、ムッシュ ディオールにとって「色彩」とは作品における重要な要素だった。

 スズランの花を愛したムッシュ ディオールは、お気に入りの白をエレガントなイブニングドレスに使うのが好きだった。スズランをあしらったスカートには、繊細な刺繍が施されている。このドレスを作ったとき、ムッシュは花のひとつひとつが「身震いする」ような仕上がりとなるように指定している。

 建物の外壁の柔らかなピンクと、そこから見える断崖のグレーも、このメゾンにとって重要な色だ。ガリアーノは07年春夏コレクションの中でピンクとグレーのドレスを発表した。このドレスは、刺繍いりのボディスとハンカチのように折りたたんだカートが特徴だ。

 作品の持つ色が引き立つように、ライティングにも細心の注意を払った。そのため、作品保護を最重要課題とする他の作品展で見られるような薄暗い照明は今回採用しなかった。しかしながら、今回のエキシビションの後に、展示作品は「長期休暇」に入り数年間展示されないことになっている。

■ドレスの名前にまつわるストーリー

 熱心なアーカイブ研究で有名なガリアーノは、1997年に発表した初コレクションでムッシュ ディオールのミューズだったマダムMitzah Bricardにオマージュを捧げたチュールドレス「Mitzah」発表した。このドレスには、パリ社交界一の気品を持つ女性と謳われたマダムのお気に入りだったライラックカラーを選んだ。

 展示会主催者のひとり、Barbara Gouffroy氏によると、マダムは首元の傷を隠すために、常にレオパード柄のスカーフを巻いていたという。また、リヨンの老舗絹織物メーカー ビアンシニ・フェリエ(Bianchini Ferier)から依頼を受けたムッシュは、1955年にレオパード柄のトレンチコートをデザインした。

 「はじめはあまり売れなかったが、マレーネ・ディートリッヒ(Marlene Dietrich)が買ってからは皆の必須アイテムになった」とGouffroy氏。現代と同じく、セレブの“おすすめ”は、売り上げに大きな効果をもたらすようだ。

 各ドレスに名前をつけていたムッシュ ディオールが「Lucky Star」呼んでいたネイビーブルーの星柄刺繍入りドレスも展示されている。これは、1946年4月18日にムッシュが資本家マルセル・ブサック(Marcel Boussac)氏に会いにいく途中に歩道できらりと光る“星”を発見したことに由来したもの。馬蹄から外れて落ちた小さな金属製の星を拾った後に、ムッシュはブサック氏から資本援助を受けることに成功した。その後、“星”をリボンに貼り付け、机の上に幸運のお守りとして置いていた。

■香水のインスピレーション源となったバラ園も

 リボンやちょう結びもムッシュ ディオールのお気に入りのひとつだ。フェレは初コレクションの中で、ムッシュ ディオールにオマージュを捧げ、巨大なリボンが型についた千鳥格子のドレスを発表した。この千鳥格子は、メゾンが発表した香水のパッケージにちなんだものだ。

 ドレスの他には、アクセサリーなどの小物や、ムッシュ ディオールと親交の深かったイラストレーター ルネ・グリュオ(Rene Gruau)が描いた香水の広告なども展示。黒いチュールで飾られたピンクの椅子には、エレガンスの代名詞のような白の長手袋がディスプレイされている。

 ムッシュが幼少時に遊んでいた庭園には、芳しい香りを放つバラが咲き乱れている。このバラは、初期の香水を生み出す際のインスピレーション源となったという。

 展示会の会期は9月23日まで。開館時間は朝10時から午後6時半。入場料5ユーロ。写真は、クリスチャン・ディオール美術館の外観と「Exhibition at Dior family home spans 60 years of couture」のポスター(2007年5月14日撮影)。(c)AFP