【リオ・デ・ジャネイロ/ブラジル 3日 AFP】世界で最も危険で貧しい地域のひとつ、シダデ・デ・デウス(Cidade de Deus)にモデル学校が設立された。ファッションの世界を通して、少女達が生活の質を向上させ、自分の価値を見いだしていって欲しいという願いから誕生した学校だ。

■「ゴミ溜めの中のダイヤモンド」

 シダデ・デ・デウスの名を世に知らしめたのは、ブラジル出身で「モーターサイクル・ダイアリーズ」などの作品で知られるウォルター・サレス(Walter Salles)監督とこの地区と同じ名前を持つ映画「シティ・オブ・ゴッド(2002)」だ。そんな「神の街(シダデ・デ・デウス)」で、2002年からバロス氏は少女達の写真を撮り始めた。同氏によると、この地区に登録されている住民は4万5000人だが、実際には12万人の人々が暮らしているという。地区が無法地帯になっている事実を物語る数字だ。


 「腐敗したこの町に眠る“ダイヤの原石”を見つけるために、この仕事をしています。」と語るのは40歳の現役フォトグラファー、トニー・バロス(Tony Barros)。この「レンテ・デス・ソノス(Lente dos sonhos, 直訳では夢のレンズを意味する)」プロジェクトの第一人者であるバロス氏は、すでにこの地区から数名の少年少女をステージへ送り出している。「このプロジェクトを始めたのは、少女達の美しさと劣悪な環境が生み出すコントラストにスポットを当てたかったからです。」と同氏は付け加えた。元々バロス氏は、暴力と戦う地元NGO機関、Viva Rio(ビバ・リオ)のホームページ上に載せる写真を撮っていた。

 それから5年後の今年、学校の運営はボランティアに頼っているものの、着実に地区とファッション業界のコラボレーションが実を結び始めている。外国からの業務提携が実現したのだ。「当初は、トニーがこの地区で私たちを撮るという計画にいい気がしませんでした」と話すのは、同地区出身のトップモデルGisele Guimaraes(22)さん。178cmの身長で50kgというプロポーションを持つ彼女は1年前、モデルエージェンシー・エリート(Elite)のブラジル支局でモデルとして採用された。

 「トニーの説得に折れた私とLudmillaは、電線が絡み合い、どぶの臭いが耐え難いゴミ溜の真ん中で、ポーズを取ったのです。それが大成功だったのです!」と満面の笑みでGiseleさんは語った。写真は「暴力以外の何かに」という見出しと共に新聞の一面を飾った。地元暴力団体に目を付けられたものの、この写真が残したメッセージは深い共感を呼んだ。

■自分のように少女達にも夢を

 「もし、このプロジェクトがなかったら、私は今頃麻薬の密売者にでもなっていたでしょうね。それとも娼婦にでもなっていたかしら」とGiseleさんは語る。現在、彼女は毎週土曜日この地区を訪れ、20数名の少女達にモデリングの指導をしている。

「皆がステージに上がれるとは限らないけど、授業は誰でも参加できるわ。まず、自分を好きになることから学んで欲しいの」と語ったGiseleさんは、辞めてしまった中等教育を最履修するため、最近学校に通い始めた。

 現在、バロスのプロジェクトは約600世帯の子供達を受け入れている。地区の誇りでもあるこのプロジェクトが行った初のファッションショーでは、モデルとスタイリスト達が提供した衣装が華やかに披露された。


 この地区に住む13歳の少女、フラビア(Flavia)ちゃんは「もっといろいろな事を知りたくてこの授業を受けてるの。もっと成長してシックな女の人になりたいわ。授業に通い始めてからは、髪の毛の手入れもするようになったの。前は太っていて、何も気にせず食べ過ぎていたけれど、これからはもっとやせて綺麗になりたいの」と語る。

 すらっとした体型で特別な存在感を持つ、14歳のロラーナ(Lorrana)ちゃんはスタッフ達の期待の星だ。「“存在する私”になりたいの。前は家で何もせずだらだらしていて、この世にいないも同然の私だったわ。私の夢は、他の誰でもなくたったひとりの“私”を表現することよ」と、瞳を輝かせながら語った。

写真は、生徒たちにモデルのポージングを教えるブラジル人モデルのGisele Guimaraesさん。(c)AFP/VANDERLEI ALMEIDA