【4月8日 AFP】英国の生活保護制度は「本来の道を外れ、ライフスタイルにおける選択肢の1つと化している」――デービット・キャメロン(David Cameron)英首相は7日、このように述べ、政府が今月から導入する各種公的手当の削減・打ち切り政策を擁護した。

 キャメロン首相率いる保守党と自由民主党の連立政権は、緊縮財政を掲げ、1世帯が受給できる生活保護費に全国の平均年収に合わせて上限を設けるなどの大幅な福祉制度改革を進めている。しかしこの改革に対しては野党・労働党から強い批判が出ている。

 与野党の論争は、昨年起きた生活保護を受けていた男による放火殺人事件をめぐって激化している。この事件では、5人の女性との間に17人の子供を持ちながら働かずに生活保護で暮らしていたミック・フィルポット(Mick Philpott)被告が、元愛人を殺害しこの女性との間にできた子どもの親権を得る目的で自宅に放火し、子ども6人を死なせている。

 この事件について、フィルポット被告は生活保護制度の産物かとの質問を受けたジョージ・オズボーン(George Osborne)財務相は、同被告のような生活を送っている者を納税者が支えるべきかどうかを問う議論が必要だと答えた。

 ところがこの発言は、労働党議員らから異例の激しい批判を受ける結果となった。労働党の影の財務相を務めるエド・ボールズ(Ed Ball)議員は、福祉制度改革をめぐる議論は幅広いものであり、オズボーン氏が特定の衝撃的な犯罪と関連付けたことは「卑劣で、あつれきを招き、財務省の品位を落とすものだ」と、強い言葉で非難した。

 こうしたなか、キャメロン首相は英大衆紙サン(The Sun )への寄稿で政府の改革政策を擁護。真面目に働いている人たちよりも生活保護受給者のほうが収入が多くなる例が発生する状態は「狂っている」と述べ、生活保護制度が本来の目的から逸脱し、本末転倒の事態に陥っていると批判した。

「生活保護制度は貧困から人々を救うために設けられたが、今では制度に頼る人が多すぎる。当面の困窮期をしのぐ目的だったのに、今ではライフスタイルの選択肢として利用している人たちがいる。英国民が一致団結できるよう設けられた制度が、憎しみを生み出している」(キャメロン首相)

 キャメロン首相は、与党が進める大規模の福祉制度改革はこうした状態を是正するためだと主張。「改革の指針は単純だ。わたしたちの税制度と福祉制度の根幹に公平性を取り戻すことだ」と説明した上で、「真摯に仕事に励んでいる全ての英国民に、わたしは言いたい。わたしたちは、あなたがたの味方だ」と呼びかけた。

 サン紙に掲載されたYouGovによる世論調査では、有権者の10人に6人が現在の生活保護制度について温情が厚すぎると考えていることが示されている。制度の見直しが必要と答えた人は67%で、生活保護費の支給額を英世帯平均年収の2万6000ポンド(約390万円)までに制限するとのキャメロン政権の政策を支持する人は79%に上っている。(c)AFP