【4月8日 AFP】長年にわたるデフレから日本経済を脱却させようと、日本銀行(Bank of Japan)は4日、大胆な金融緩和策を打ち出した。

 報道陣が詰めかけた記者会見で、日銀の黒田東彦(Haruhiko Kuroda)新総裁は、「質、量ともにこれまでとは全く次元の異なる金融緩和だ。戦力の逐次投入をせずに、2%の物価目標を達成するために必要な政策をすべて講じた」と述べ、過去に例をみない「量的・質的金融緩和」を実施すると語った。金融政策の「レジームチェンジ(体制変革)」と呼ばれる一連の動きは、専門家らが経済を行き詰まらせてきた要因と批判する、「自己規制」を日銀自らが捨て去ることを示している。

 マネタリーベースを年間60~70兆円ペースで増加させ、2014年末には270兆円まで引き上げる方針を日銀が打ち出すと市場は好感し、日経平均株価(Nikkei 225)は高騰。国債利回りが過去最低を割り込み、円相場は競争力を円安に依存している日本の輸出を鼓舞する水準まで急落した。

 朝には1ドル92.71円だったドル相場は、日銀発表後の午後半ばには1ドル95.46円の円安・ドル高となった。また前日よりも200円ほど下落していた日経平均は急反転し、この日の取引を1万2634円54銭の高値で終え、1日の値上がり幅は558円に及んだ。さらに10年物国債の利回りは0.425%と過去最低水準を更新した。

■「未知の領域」への一歩

 観測筋には「大きな一歩」「勇気ある新政策」などと称える声がある一方で、この思い切った金融緩和策が必ずしも成功する保証はないと警告する声もある。

 第一生命経済研究所(Dai-ichi Life Research Institute)の首席エコノミスト嶌峰義清(Yoshikiyo Shimamine)氏は、過去の日銀とは違うことを黒田総裁は示したと評価した。

 日本政府もこの動きを歓迎し、日銀総裁に黒田氏を任命した安倍晋三(Shinzo Abe)首相も「まさに期待通りの対応をしていただいている」と述べた。一方、黒田氏は、この戦略が80年代後半に株価や不動産価格が高騰したバブル景気のような資産価格バブルを引き起こすのではないかと懸念する声を一蹴している。

 しかし、日銀の努力を評価する人々もこれが「未知の領域」への一歩であり、裏目に出れば日本を借金漬けにして終わる計画であることを認めている。

 三井住友銀行(Sumitomo Mitsui Banking Corp)のチーフストラテジスト宇野大介(Daisuke Uno)氏は、このギャンブルによってどこへたどり着くのかはうかがい知れないと言う。

■黒田氏は歴史に名を残せるのか

 米ボストン大学(Boston University)のウィリアム・グライムス(William Grimes)教授もこの政策には「プラス効果があるだろうが、保証はない」と述べる。「デフレ期待は(今)、日本の企業や消費者たちの間にとても深く染み込んでおり、また日本の財政状況もかなり悪化している。これは、財政刺激策が控えめで一時的なものになる中、金融政策だけが一人歩きするということを意味する」

 4日の日銀発表には、上場投資信託(ETF)や、不動産投資信託(J-REIT)といったよりリスク性が高い資産の買い入れ拡大も含まれていた。

 長引く不況から日本の方向を転換させることができれば、黒田氏は歴史に名を残す存在となるかもしれない。しかし英シンクタンクのキャピタルエコノミクス(Capital Economics)などが警告しているように、黒田氏が目標を高く設定し過ぎた可能性も拭えない。(c)AFP/Peter Brieger