【2月23日 AFP】韓国企業が、「仕事中毒」の文化に背を向け始めている。これまで避けることはできないとみなされてきた仕事一辺倒の働き方を、不健康で非生産的、非効率的だと考える傾向が強まっているのだ。

 長時間労働、そして退社後さらに深夜まで続く上司との気が張る酒の席は長年、韓国経済の特徴とされてきた。こうした企業文化によって、戦争で大きな痛手を負った韓国はわずか数十年の間にアジア第4位の経済国へと発展した。

 しかし、急速な発展は新たな価値観を生み出し、人々が大切にすることの優先順位を変えた。前の世代は「愛国者としての義務は国を貧困から脱出させることだ」と言い聞かされてきたが、今の会社員たちはより良い仕事と生活のバランスを求めている。

 国営韓国中小企業銀行(Industrial Bank of KoreaIBK)に1986年から勤務する現ソウル (Seoul)支店長の男性(53)はAFPの取材に対し、ここ20数年間、家族と共に夕食を取ることなど夢だったと語る。「毎晩10時や11時、もっと遅くまで働いた。やることはいくらでもあった。ただ上司が帰らないから自分も残るということもあった。2人の子どもが成長する間、家族と十分な時間を過ごすことはできなかった。帰れば、ほとんどいつも子どもたちは寝ていた」と言う。

 しかし2009年以降、資産規模で国内第4位のIBKでも、こうした働き方に変化が起こり始めた。行内のコンピューターのスイッチを全て、午後7時で切ってしまう方針を導入したのだ。この「PCオフ」規則は成功し、今年から他行の多くでも開始される。

 韓国人労働者の2011年の平均労働時間は、週44.6時間。経済協力開発機構(Organisation for Economic Cooperation and DevelopmentOECD)加盟34か国中、トルコに次いで2番目に長い。一方、生産性の高さでは加盟国中28位と、長時間労働による疲労の影響が垣間見える。

 コンサルティング会社タワーズワトソン(Towers Watson)が昨年発表した報告によると、自らを「非常に仕事熱心だ」と考える韓国人労働者はわずか17%で、調査対象とした先進28か国平均の35%を大幅に下回った。

■もっと「暮らしやすい」国へ

 長時間労働の家庭生活への影響は、韓国でも進む出生率低下の一因になっているとも指摘されてきた。出生率低下によって韓国は急速に高齢化が進む国の一つとなっており、この傾向が大きな財政負担をもたらすことが予想される。

 国連が先ごろ発表した報告によれば、韓国人口に占める60歳以上の割合は、2012年には17%だったが、2050年には39%にまで膨らむ見通しだ。その一方で若年人口は2060年、現在の半分にまで減るとみられている。

 韓国保健社会研究院(Korea Institute for Health and Social AffairsKIHASA)の李三植(Lee Sam-Sik)氏は「出生率低下の理由の一部は、子育てのための時間が絶対的にないことだ。出生率を引き上げ、国の長期的な競争力を高めるには、そして何よりも韓国をもっと暮らしやすい国にするためには、働き過ぎの文化を変えることが急務だ」と主張する。

 こうした中、「チェボル」(財閥)と呼ばれる同族経営の巨大複合企業体でも、徐々に変化が起き始めている。韓国最大の自動車メーカー、現代自動車(Hyundai Motor)は10年間に及ぶ労使交渉の末、工場従業員約3万人の労働時間の削減と、深夜勤務の廃止にようやく同意した。

 一方、国内35の銀行と金融機関は、年末までに「PCオフ」規則を導入することで最近、産業労組と合意に至った。午後7時以降も残業する場合には、上司から特別許可を得ることを行員に義務付ける方針だ。上司はどれだけの利益を上げたかだけではなく、部下がどれだけ早く帰宅しているかによっても評価されることになる。

 前出のIBKの支店長は「若い父親たちにとって、状況はより良い方向へと変わっていくだろう。それが経済面だけでなく、文化的、社会的にもより良い国になることだと思う」と語った。(c)AFP/Jung Hawon