【10月4日 AFP】中国の政財界でのし上がろうと思ったら、贈り物は必須だ。だが、上司が出世するか失脚するかが未知数の場合には、どうすれば良いだろう?

 中国のショッピングのメッカ、香港における高級品の販売状況から察するに、10月1日から始まった「黄金週」の休暇中に香港を訪れる中国本土の富裕層にとって、この問題は深刻なようだ。

 例年ならば、香港の店にとって黄金週は1年で最も繁盛する時期。だが今年は中国経済の失速に、10年に1度の中国共産党指導部交代が重なった。

 新国家主席を指名する共産党大会は11月8日に予定されている。トップ人事については、習近平(Xi Jinping)国家副主席が胡錦濤(Hu Jintao)国家主席を引き継ぐという見通しに異論を挟む専門家は少ない。だが、中国の巨大な国家機構のもっと低位のポストで何が起きるかは誰にも分からない。

 共産党の幹部周辺で根深い対立が起きているといううわさが広がっており、多くの専門家は、江沢民(Jiang Zemin)氏が国家主席に指名された1989年以降、最も波乱に満ちた指導部交代になると予測している。

 こうした不透明な情勢を示す証拠は、香港の宝飾店にディスプレーされているのかもしれない。専門家や販売業者によると、高級ギフト市場の指標たる高級時計の売り上げが、ここ数か月で落ち込んでいるのだ。「今年は約20~30%の売り上げ減少」と語るのは、高級腕時計店販売員のウォンさん。「購入者の数が減っている気がする。大変化だよ」

 専門家らは、中国経済の成長減速と、中国本土からの観光客の間で日帰りが増加していることが、高級品の売り上げ低迷の原因とみている。中国の今年第2四半期の経済成長率は7.6%と、2009年3月以降最も緩やかだった。

 英金融大手HSBCの大中華圏担当エコノミスト、ドナ・クオク(Donna Kwok)氏はAFPの取材に「1泊する予定で香港に来る場合には予算も多めで、滞在時間も長めになる。大局的に見れば、中国経済が現在、減速中だということが最も大きい」と分析する。

■「グアンシー」構築に腕時計の贈り物

 とはいえ、共産党大会後に誰が権力を獲得しているか分からないという不透明感が、少なくとも特定の高級品市場の落ち込みに関係しているようだ。

 昨年1年間の中国の消費者の高級品支出は計490億ドル(約3兆8450億円)だった。これは高級品のグローバル市場、計1970億ドル(約15兆4600億円)の4分の1にあたる。さらに今年は中国が米国を抜き、高級品購買国として世界のトップに立つ見通しだ。

 専門家によれば、中国人の高級品購入のうち、およそ20%は贈り物用。贈り物は中国で「グアンシー(人脈の意味)」構築の潤滑油の役割を果たしている。

 このグアンシーの非公式な指標の役割を果たしているといえるのが、時計市場だ。理屈としては、贈り物の腕時計が高価であればあるほど、贈り物の受け手がより強い権力を持つ人物であることを表す。

 証券大手CLSAの消費者調査部門責任者アーロン・フィッシャー(Aaron Fischer)氏は「確かに、時計市場は少し弱い。時計は贈り物と強く結びついている市場だ」と語る。

 香港政府観光局(Hong Kong Tourism BoardHKTB)の統計によれば、香港の2010年時計・宝飾品販売増加分のうち約30%が、中国本土の購買者によるものだった。また昨年上半期、香港の高級品市場は32%の売上増だったが、今年同期はわずか2.2%増にとどまっている。

 香港のある高級品販売大手幹部は、共産党中枢の権力移行を取り巻く政治状況が読めないため、事態が落ち着くまで一部の人たちは贈り物購入を見送らざるを得ない状態だと語る。この幹部によれば、上司に好印象を与える贈り物リストに最近新たに加わったフランス産高級ワインなどにもこの影響が出そうだという。(c)AFP/Stephen Coates