【8月18日 AFP】雑然とした街と高層ビル群に囲まれた14階建てビルの屋上には、土いっぱいの箱に有機野菜のキュウリやジャガイモが育っている。香港のコンクリート・ジャングルに最近登場している屋上菜園の一風景だ。

「スーパーマーケットで買う物を食べるより、ここで自分で育てた物を食べるほうが楽しい」と看護師のメラニー・ラムさん(28)は語る。香港島のクオーリーベイ(Quarry Bay)地区の「シティファーム」にラムさんは週に2回、通っている。「私が育てている野菜のほうが、スーパーの野菜と比べて甘いし新鮮。ずっと満足できる」

 立ち並ぶビルに700万人がひしめく香港の、さらに最も人の多い地区で、使用されていない屋上は数少ない菜園スペースだ。菜園スペースといえばロンドンやニューヨークなどの都市では以前から流行しているが、ビジネスにしか関心がない香港で注目されたのはここ最近のことだ。

 屋上菜園に許可は要らないため公式の統計はないが、多くの人が話題にするようになっている。また有機野菜の人気上昇については統計がある。香港特別行政区政府が奨励する有機農業に参加する菜園は2008年の123軒から2012年には193軒に増えている。

 2年前にオープンした「シティファーム」には現在、約100人が定期的に通っている。菜園に申し込む人は短期間で増えたという。930平方メートルの屋上には400個の箱が並んでいる。箱は1個につき1か月150~200香港ドル(約1600~2000円)で借りられる。ラムさんは「ここへ来る人はみんな楽しそう。精神安定剤というか、日常からの脱出っていう感じね」と語る。

■高齢化地区の活性化にも

 九龍(Kowloon)半島の東に位置する土瓜湾(To Kwa Wan)は交通手段が少なく、住民は圧倒的に高齢者が多い。この地区で屋上菜園を始めたチュウ・プイクワンさんは、菜園によって放置されていた地区に活気が出たと言う。

 工事現場から捨てられていたトタン板や資材を「救出」して菜園箱を作り昨年11月、12階建てビルの屋上にオープンした。一緒に始めたプイクワンさんと友人2人は、地域コミュニティにも加わってもらおうと最初から決めていた。「近くのお年寄りたちを誘ってここへ来てもらい、みんなで箱にペンキを塗った。ものすごく楽しんでくれた」。チュウさんは地元産の食べ物の流通を改善するための会社「Time To Grow」にも関わっている。

 色とりどりに塗られた箱には今、ホウレンソウや豆類、レモングラス、ミント、ローズマリーなどたくさんの種類の野菜やハーブが育ち、くすんだ街並みに絵の具を散らしたようだ。

 またチュウさんたちは週に1度、都市菜園の講習会をビクトリア・ピーク(Victoria Peak)で開いている。香港島で最も高い場所で、受講者たちは絶景を楽しみながら参加できる。「1軒1軒の家に少しでも野菜をというのが趣旨。屋根の上でも窓際でも、鉢植え1個でもいい」

 しかし趣味としての人気は高まっているが、もっとスペースがあって屋上菜園のアイデアが根付いている他の都市とは違い、香港の屋上菜園で売って儲けるほどたくさんの野菜が作られる兆しはない。ちなみに香港の野菜の自給率はわずか3%となっている。(c)AFP/Sam Reeves