仏ノルマンディーの英国パブ、ワイン派フランス人を続々「征服」中
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【8月16日 AFP】くつろいだ雰囲気の店内でハンドポンプからパイントグラスに注がれる樽(たる)出しビターエール、つまみは自家製フィッシュ・アンド・チップス――パブ「フェイマス・ナイト(Famous Knight)」は典型的な英国パブだ。ただし、このパブがある場所は仏北部ノルマンディー(Normandy)の小さな村クプトラン(Couptrain)。提供するビターは全て、車で数分の距離にある醸造所から届けられる。
酒といえばワイン、が当たり前のフランスでは、ビールを飲もうと思ったら工場で大量生産されたラガービールしかほぼ選択肢がなかった。そんな環境にあってフェイマス・ナイトのリアルエールビールは今、驚くほどたくさんのフランス人ファンを集めている。
「ビールは、いつだって私の情熱の源だよ」と語るスティーブ・スキューズ(Steve Skews)さん(62)は、ひげをたくわえた陽気な英国人だ。妻のジェーン(Jane Skews)さんと共に、フェイマス・ナイトとエールビール醸造所――その名も「ル・ブルワリー(Le Brewery、醸造所の意)」――を経営している。
スキューズさんは1990年代初めにノルマンディーに移り住み、緑豊かな片田舎にある石造りの農家に落ち着いた。当初はサイダー(りんご酒)を造っていたが、1999年にフランス各地で大きな被害を出した大嵐で、りんごの木の大多数がなぎ倒されてしまった。早急に代替事業を探す必要に迫られたスキューズさんは、やはりビール好きの兄弟の協力を得て、英イングランドで閉業したばかりの醸造所を見つける。「(醸造所に使える)建物はもうあったからね。醸造器具や設備だけ運び出して、船でイギリス海峡の対岸まで運んだんだ」(スキューズさん)
■品揃えの幅と機知に富んだ銘柄でファン獲得
立ち上げから12年、ル・ブルワリーの事業は順調だ。濃厚な味わいのビターから夏におあつらえ向きの軽い口当たりの白ビールまで、英国伝統の醸造法を守りつつ積極的に品揃えを広げている。
銘柄の大半には、しゃれを利かせた名称が付けられている。というのもノルマンディーは、1066年の「ヘイスティングスの戦い(Battle of Hastings)」でイングランド王ハロルド2世を破ったノルマンディー候「征服王ウィリアム(William the Conqueror)」の生誕地なのだ。「コンカラン(Conquerant、征服者)」や「ハロルドの報復(Harold's Revenge)」といった銘柄が「地元の人々とイギリス人との話がはずむきっかけになれば」と、スキューズさんは話す。
その甲斐(かい)もあって、パブの客足は伸びている。「初めて英国のビターを味わったフランス人は、ちょっと困惑した表情になるね。だけど、私たちはかなりの人数のフランス人を改心させることに成功したよ」とスキューズさん。「みんな、ビールにも深い味わいがあることを知って驚くんだ」
フェイマス・ナイトの常連客たちも同意見だ。その1人、ダニエルさんは「ここに来るようになってから、フランスのビールは一切飲むのを止めたよ」と教えてくれた。もう1人のイバンさんも言う。「ここのビールが好きだ。何より、地元で造っているというのがいいよね」
フェイマス・ナイトの客はほとんどがノルマンディー在住だが、スキューズさんは首都パリ(Paris)や南部ブルターニュ(Brittany)地方などにも支店を設け、販売網をフランス全土に拡大しつつある。
■足りないものは後継者
順風満帆に見えるル・ブルワリーだが、先行きには暗雲もただよう。現在62歳のスキューズさんには、10年後も醸造を続けるつもりはない。だが、娘たちは醸造所に関心がなく、後継者が不在なのだ。
「誰か、醸造業にチャレンジしてみたいという若者がいれば、喜んで話をしたい。醸造所は今後もずっと続いてほしいからね」とキューズさんは語った。(c)AFP/Simon Coss
酒といえばワイン、が当たり前のフランスでは、ビールを飲もうと思ったら工場で大量生産されたラガービールしかほぼ選択肢がなかった。そんな環境にあってフェイマス・ナイトのリアルエールビールは今、驚くほどたくさんのフランス人ファンを集めている。
「ビールは、いつだって私の情熱の源だよ」と語るスティーブ・スキューズ(Steve Skews)さん(62)は、ひげをたくわえた陽気な英国人だ。妻のジェーン(Jane Skews)さんと共に、フェイマス・ナイトとエールビール醸造所――その名も「ル・ブルワリー(Le Brewery、醸造所の意)」――を経営している。
スキューズさんは1990年代初めにノルマンディーに移り住み、緑豊かな片田舎にある石造りの農家に落ち着いた。当初はサイダー(りんご酒)を造っていたが、1999年にフランス各地で大きな被害を出した大嵐で、りんごの木の大多数がなぎ倒されてしまった。早急に代替事業を探す必要に迫られたスキューズさんは、やはりビール好きの兄弟の協力を得て、英イングランドで閉業したばかりの醸造所を見つける。「(醸造所に使える)建物はもうあったからね。醸造器具や設備だけ運び出して、船でイギリス海峡の対岸まで運んだんだ」(スキューズさん)
■品揃えの幅と機知に富んだ銘柄でファン獲得
立ち上げから12年、ル・ブルワリーの事業は順調だ。濃厚な味わいのビターから夏におあつらえ向きの軽い口当たりの白ビールまで、英国伝統の醸造法を守りつつ積極的に品揃えを広げている。
銘柄の大半には、しゃれを利かせた名称が付けられている。というのもノルマンディーは、1066年の「ヘイスティングスの戦い(Battle of Hastings)」でイングランド王ハロルド2世を破ったノルマンディー候「征服王ウィリアム(William the Conqueror)」の生誕地なのだ。「コンカラン(Conquerant、征服者)」や「ハロルドの報復(Harold's Revenge)」といった銘柄が「地元の人々とイギリス人との話がはずむきっかけになれば」と、スキューズさんは話す。
その甲斐(かい)もあって、パブの客足は伸びている。「初めて英国のビターを味わったフランス人は、ちょっと困惑した表情になるね。だけど、私たちはかなりの人数のフランス人を改心させることに成功したよ」とスキューズさん。「みんな、ビールにも深い味わいがあることを知って驚くんだ」
フェイマス・ナイトの常連客たちも同意見だ。その1人、ダニエルさんは「ここに来るようになってから、フランスのビールは一切飲むのを止めたよ」と教えてくれた。もう1人のイバンさんも言う。「ここのビールが好きだ。何より、地元で造っているというのがいいよね」
フェイマス・ナイトの客はほとんどがノルマンディー在住だが、スキューズさんは首都パリ(Paris)や南部ブルターニュ(Brittany)地方などにも支店を設け、販売網をフランス全土に拡大しつつある。
■足りないものは後継者
順風満帆に見えるル・ブルワリーだが、先行きには暗雲もただよう。現在62歳のスキューズさんには、10年後も醸造を続けるつもりはない。だが、娘たちは醸造所に関心がなく、後継者が不在なのだ。
「誰か、醸造業にチャレンジしてみたいという若者がいれば、喜んで話をしたい。醸造所は今後もずっと続いてほしいからね」とキューズさんは語った。(c)AFP/Simon Coss