【7月26日 AFP】前週、米インターネット大手ヤフー(Yahoo!)の新最高経営責任者(CEO)に起用された元グーグル(Google)幹部のマリッサ・メイヤー(Marissa Mayer)氏(37)が就任直後に妊娠を明らかにしたことを受けて、米国ではワーキングマザー(働く母親)をめぐる議論が一段と活発になっている。

 メイヤー氏はマイクロブログのツイッター(Twitter)で、10月に投資家のザック・ボーグ(Zack Bogue)氏との間に男の子が誕生すると公表。その後、米誌フォーチュン(Fortune)の誌上で「生活のリズムは崩したくない」「数週間の産休を取るが、その間も働き続ける」と宣言して、妊娠・出産がCEOの職務遂行を妨げることはないと株主に約束した。

■ネット界は好意的、「現実を見よ」との指摘も

 インターネット上では、メイヤー氏を応援する発言が相次いだ。映画『ローズマリーの赤ちゃん(Mia Farrow)』で「悪魔の子」を身ごもる女性を演じ、私生活では養子を含めて13人を育てる米女優ミア・ファロー(Mia Farrow)さんは、「彼女(メイヤー氏)をきっかけとして、企業が全ての働く母親たちにもっとましな選択肢を提供するようになって欲しい」とツイート。

 2児の母親であるプリンストン大学(Princeton University)のアンマリー・スローター(Anne-Marie Slaughter)教授も、「数え切れないほど多くの女性を励ました」とやはりツイッターでメイヤー氏を称賛した。スローター教授は、家族と過ごす時間を増やしたいとの理由で米国務省(State Department)の要職を辞任した経歴を持つ。米誌アトランティック(The Atlantic)の7月/8月号に、ワーキングマザーが「全ての望みをかなえる」ことは本当に可能かどうかを問い掛けるエッセイを掲載し、強い反発を招いた。

 一方で、子育て関連のブログを「LadydeeLG」のハンドルネームで運営するニューヨーク(New York)在住の若い母親ダイアナ・リモンギ(Diana Limongi)さんは、経験を基に冷静な意見を投稿している。特にメイヤー氏の「仕事のリズムを崩さない」との発言について、「(母親となった)私たちが受け入れ、折り合いをつけていかなければならない現実を認めていない」「赤ちゃんには世話が必要だし、母親には疲れを癒しつつ赤ちゃんと過ごす時間が必要だ」と手厳しい。

■働く女性に厳しい米社会、ヤフーが変えるか?

 フォーチュン誌が発表した全米売上トップ500社のうち、経営者が女性の企業はわずか19社。「記録的に少ない水準」だと同誌は指摘している。これらの女性経営者の多くは子どもがいるが、出産間近の時期にCEOに就任するというのは前代未聞だ。

 米国勢調査局(US Census Bureau)によれば、18歳未満の子どもを持つ全米の母親3400万人のうち、半数近い47%がフルタイムかパートタイムで就労している。しかしこれらの母親たちにとって、メイヤー氏がその高額報酬を基に得るであろうベビーシッターや託児所、社名入りの育児用品といった手厚い福利厚生は、夢のまた夢だ。

 実は、米国は西側諸国で唯一、有給の産休を法的に認めていない。米連邦法は女性に12週間の産休を与えるよう規定しているものの、この期間は無給。さらに適用にあたっては、勤務先が従業員50人超の企業であり、勤続年数が1年以上あることが条件となっている。

 ワーキングマザーの待遇改善を働きかけている団体は、メイヤー氏のCEO就任でヤフーが「家庭に優しい」企業風土を先導していってくれるのではと期待している。(c)AFP