【6月21日 AFP】米中学校教師のメリッサ・レプシュさん(37)と夫のジェイクさん(38)が最近何よりの楽しみにしているのは、長い1日を終えて夕食の時に飲む地ビールだ。今、米国では各地の独立系醸造所で少量しか生産されない香り豊かな地ビールの人気が高まっている。

 今年、全米最大のビールと食のイベント「Savor」には74醸造所から149種類の地ビールが出品され、レプシュさん夫妻も幾つか試飲した。「(いろいろな地ビールを)飲めば飲むほど、より独特で珍しいものを探したくなりますね」

■急速に成長する地ビール市場

 米ビール業界の規模は960億ドル(約7兆7000億円)で、海外資本の大手3社に独占されている。バドワイザー(Budweiser)が有名なベルギーのアンハイザー・ブッシュ・インベブ (Anheuser-Busch InBev)、英SABミラー(SABMiller)、カナダのモルソン・クアーズ(Molson Coors)だ。地ビールは市場のわずか5%しか占めていない。

 だが、ビール全体の売り上げがおよそ1%落ちた2011年、地ビールは出荷量で13%、売上高では15%もの伸びを見せた。

 何より驚きなのは、米国内の醸造所数が2000を超えた点だ。禁酒法時代より前の19世紀以来、これほど多くの醸造所が米国に存在したことはない。「米国人も成熟し、さまざまなビールを求めるようになった」のだと、地ビールの業界団体ブリューワーズアソシエーション(Brewers Association)のジュリア・ヘルツ(Julia Herz)さんは言う。「軽めのアメリカン・ラガーではもはや全てのビール好きを満足させることはできないのです」

■SNSもブームを後押し

 地ビールの「伝道」にはソーシャル・ネットワークの普及も一役買っている。地ビール専門誌も次々創刊され、地ビールマニアのための「アンタップド(Untappd)」というスマートフォン用アプリなどもブームを後押しする。

 ワシントンD.C.(Washington D.C.)の国立建築博物館(National Building Museum)で行われた前述の地ビール・イベント「Savor」には、マニア4000人が詰めかけた。

 コンサルティング業を営む来場者のリック・シルバーさんは、自分でも手作りビールを楽しむほどだ。地ビールに「はまった」のは80年代半ばで、これまでに6000種類以上を飲んだと豪語する。

■金融業界から転身、醸造所設立

 遠くハワイ(Hawaii)から出展したマウイ・ブリューイング(Maui Brewing)は、元は金融業界で働いていたギャレット・マレロさん、メラニーさん夫妻が7年前に興した醸造所だ。「ハワイアン・フレーバーのビール」という売り込みで、ココナツやグアバ、マンゴー、パパイヤ、パッションフルーツ、パイナップルといった南国フルーツの香りも華やかな新種のビールを持って来た。

 夫妻は醸造所立ち上げに、文字通り全財産をつぎ込んだ。マットレスさえ買えず床に寝ていた日々さえあった。「弱気じゃ、やっていられない。たくさんの努力と人一倍の働きが求められる。けれど、私たちはやりたいことがはっきり分かっていて、情熱があった」とギャレットさんは振り返る。

■よりどりみどり、種類の多さでは世界一

 一方、ミネソタ(Minnesota)州のサミット・ブリューイング・カンパニー(Summit Brewing Company)の醸造責任者ダミアン・マッコンさんは、アイルランド・ダブリン(Dublin)の出身だ。米国の地ビール市場は有望だとみて10年前に移住してきた。今まで一度もその決断を後悔したことはないという。

「創造性と革新性では、今こそ米国産地ビールの時代だと思う。ドイツやベルギー、チェコに行けば技術的に世界で最も優れたビールに出会えるが、地ビールの種類の豊富さでは今の米国にかなう場所はない」 (c)AFP/Robert MacPherson