【5月17日 AFP】中国は過去20年間の経済成長で、貧困層を中心に幸福度が下がっているとする研究結果が14日、米科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of SciencesPNAS)に発表された。

 米・南カリフォルニア大(University of Southern California)のチームの研究は、中国の1人当たりの国内総生産(GDP)が4倍に伸びた1990年代以降に、中国人の自己申告で行われた人生についての満足度調査6種類を基にした。

■経済的豊かさと幸福感の矛盾

 論文の主著者は1970年代に「経済的な豊かさは必ずしも幸福と結びついていない」と主張した同大経済学部のリチャード・イースタリン(Richard Easterlin)教授だ。この説は同教授の名をとって「イースタリン・パラドックス(Easterlin Paradox、イースタリンの逆説)」と呼ばれている。

 同教授は中国の幸福度についてこう分析する。「経済成長によって幸福は増し、また経済成長が早いほど人は幸福だと考える人は多い。しかし中国では、1人当たりの消費が驚くほど増加しているにもかかわらず、生活満足度が大きく向上したことを示す証拠は何もない。それどころか中国人の幸福度は全体としては下がっている」

 生活満足度という観点から、中国はかつて世界で最も平等な国だったが、現在は最も平等でない国になってしまったとイースタリン教授は言う。米非営利調査機関ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)や世論調査企業ギャラップ(Gallup)などの調査を同大チームが分析した結果、1990年には高収入層の68%、底辺層の65%が共に生活満足度は高いと回答していた。しかし2010年には満足度の高さを示す人は、高収入層では71%と増えていたが、底辺層では42%に落ち込んでいた。

■生活満足度にはセーフティーネットが重要

 分析のベースとなった各調査は、満足度低下の理由については触れていない。しかし同論文によれば、「収入増によって願望のレベルが高くなり、それが収入増自体に関する満足感の向上を弱めてしまう」という現象がよく知られている。また、収入増以外に「家庭生活とそれを支えるための安定した職や健康、友人や親戚関係」などへの期待値が高まるとも指摘している。似た現象はポスト冷戦時代、旧ソ連や東ドイツの体制移行期にもみられた。

 しかし論文は、そうした移行期の国々や中国の経験から、社会主義や効率性の悪い中央指令型経済への回帰に意義を見出すのは誤りだろうと指摘している。代わりに職や収入の保証と、社会的セーフティーネットを組み合わせることが生活満足度にとっては重要で、中国政府はこの数年間、セーフティーネットの修復を図ってきた点で評価できると述べている。(c)AFP