【4月10日 AFP】厳しい経営不振に苦しむ日本の電機メーカーたちの間で、根本的な「構造変化」が起きている。その最新の例が、液晶パネル事業をめぐるシャープ(Sharp)と台湾の鴻海精密工業(Hon Hai Precision Industry)との資本業務提携だ。

 かつては家電・エレクトロニクス製品の分野で世界トップを誇った日本メーカーだが、台頭するアジアのライバルの猛追を受けて赤字に陥り、もはや過去の輝きはほとんどない。

 過去数十年間、シャープやパナソニック(Panasonic)、ソニー(Sony)といったトップ電機メーカーらは余裕で米国のライバル企業の先を行っていたが、いまや大きな構造変化にさらされていると、大和総研(Daiwa Institute of Research)のエコノミスト、長内智(Satoshi Osanai)氏はAFPの取材に語った。製品を自社内で製造する方針が構造的な問題に直面しているというのだ。

 いかに日本の技術が洗練されていようとも、価格面ではるかに高い優位性を持つアジアのライバル企業が日本企業追い上げていると、長内氏は指摘する。

■日本企業にのしかかる悪材料

 日本メーカーが深刻な損失にあえぐ理由の一つは、テレビ事業で利益が上がらないことだ。円高で海外での日本製テレビの価格が高騰。韓国のサムスン電子(Samsung Electronics)など、低価格でテレビを販売する外国ライバル企業との厳しい競争にさらされている。さらに、日本では人件費、電気料金、輸入燃料や自然資源が高コストとなり、日本メーカーを苦境に陥れている。

 これに追い討ちをかけたのが、経営判断の失敗だ。戦後長らくトップ企業として君臨を続てきたソニーは今、多様なコンテンツを囲い込みソニーを追い抜いていった米アップル(Apple)を初めとする革新的なライバル企業に対し、有効な対抗策を打ち出せずにいる。

 責任の一端は、日本の政治家にもある。日本が締結にこぎつけた自由貿易協定はほんのわずかだ。一方、韓国などアジアの経済国は積極的に他国との貿易協定締結を進め、輸出産業の土俵を大きく広げてきた。

 みずほインベスターズ証券(Mizuho Investors Securities)のアナリスト、倉橋延巨(Nobuo Kurahashi)氏は、「これまで日本のお家芸だった仕事がアジアに奪われていく。これは、かつて日本も歩んできた道だ」と語った。

■日本メーカーの意識改革は進むのか

 日本メーカーのなかには、生き残りをかけて、研究開発から生産、販売までの全過程を自社で行う「垂直統合モデル」を放棄する企業も出始めた。

 シャープの奥田隆司(Takashi Okuda)次期社長(当時)は、前週の鴻海との提携発表で、「すべて自前で手掛けるには限界があった」と語っている。

 鴻海は、アップル製品など大手メーカーの製造を手がける富士康科技集団(フォックスコン、Foxconn)を系列に持つ台湾企業だ。

 シャープ発表によると、鴻海はシャープが実施する約669億円の第3者割当増資を引き受ける。これにより鴻海は出資比率が約10%となり、シャープの筆頭株主となる。また、液晶パネルを生産するシャープの堺工場を共同運営する。堺工場では赤字経営が続いていた。

 日本の電機大手は従来、外資への主用事業売却を嫌ってきたため、このニュースは異例の出来事として受け止められ、提携発表翌日のシャープ株価は前日比で15%上昇している。

 シャープと鴻海の提携について、台北(Taipei)を拠点とする大華証券(Grand Cathay Securities)のアナリスト、Mars Hsu氏は「日本企業の思考が変化していることを示唆したものだ」と指摘し、日本と台湾企業との提携は、これが最後ではないだろうと話した。「台湾には日本の最新先端技術が必要で、日本は(台湾の)安価な製造能力が必要なのだから」

(c)AFP/Harumi Ozawa