【11月21日 AFP】円高傾向に歯止めがかからない中、「メイド・イン・ジャパン」ブランドが岐路に立たされている。海外へ生産拠点を移すべきかどうか、厳しい選択を迫られる日本企業が増えているのだ。

 経済産業省の8月の調査では、大企業・製造業の46%が、1ドル=76円前後の円高基調が半年続くようなら生産工場などを海外移転すると回答した。現在の為替レートで円が高止まりすれば日本の自動車産業は「崩壊」しかねないと、円高などを要因に2011年4~9月期の純利益が前年同期比72%減となったトヨタ自動車(Toyota Motor)の小澤哲(Satoshi Ozawa)代表取締役副社長は今月、語っている。

 海外での日本企業の競争力は下がり、利益も目減りする。円高は日本の主要輸出産業に痛手を負わせている。野田佳彦(Yoshihiko Noda)首相は、国内産業が「空洞化」するとの懸念を表明した。だが、円安誘導を目的とした政府・日銀の市場介入はこれまで短期的な効果しか出せていない。

■震災も後押し、進む「空洞化」

 国内産業の空洞化は「過去よりも深刻」だと指摘するのは、大和総研(Daiwa Institute of Research)のエコノミスト小林卓典(Takunori Kobayashi)氏だ。日本企業が収益を確保せざるをえない状況に追い込まれているためだという。たとえば半導体大手エルピーダメモリ(Elpida Memory)は、円高を理由に、生産の40%を日本から台湾に移転すると発表した。

 東日本大震災で部品供給網が寸断されたことが、企業の海外移転を加速しているとの指摘もある。

 世界のペンタブレット端末市場シェアの8割以上を占める電子機器メーカー、ワコム(Wacom)は、震災後の部品供給不足を受け、中国に生産拠点を設ける方針だ。山田正彦(Masahiko Yamada)同社社長はAFPの取材に、空洞化懸念は承知しているが、供給リスクを最小化する必要性があると説明。国内にとどまることが必ずしも日本に利益を及ぼすとは限らないと述べた。

 前月、2011年度通期業績見通しが10年ぶりの大幅赤字になると発表したパナソニックも、調達・物流本部を大阪からシンガポールに移す計画を明らかにしている。

■「製造大国」日本の未来は

 一方で、高品質な精密部品や、自動車からスマートフォンまであらゆる製品に不可欠な部品の製造が可能な国内生産環境からの転出に消極的な日本企業も少なくない。

 マイクロチップ加工機器で世界シェア80%を誇るディスコ(Disco)の関家一馬(Kazuma Sekiya)社長は、あと10年もすればライバルは日本企業から中国企業になると指摘し、中国に工場を建てればノウハウや人的資源を未来のライバルに与えてしまうことになると警鐘を鳴らす。

 日本の製造大国としての地位が完全に失われることはないだろうと、クレディ・アグリコル証券(Credit Agricole Securities)東京支店のチーフエコノミスト、関戸孝洋(Takahiro Sekido)氏は話す。ただ、日本が生き残るためには、日本だけが出来ることに集中しなければならない、とも提言する。

 自動車のエンジンやブレーキシステムなどの半導体で世界シェアおよそ40%を持つルネサス(Renesas)は、その一例といえる。東日本大震災でルネサスの生産拠点が破壊された際には、同社の製品不足が世界の自動車産業に大きな影響を及ぼし、日本が未だに「製造大国」だという事実を人々に思い起こさせた。

 ディスコの関家社長は、数百年前の刀鍛冶から続く職人の伝統を持つ日本が、製造国として生き延びることを信じているとコメント。日本には素晴らしいサプライヤーと勤勉な労働者たちがおり、仮に海外に工場を建設したとしても部品のほとんどは日本から持ち出さなければならないだろうと語った。(c)AFP/Shingo Ito