【10月7日 AFP】類まれな先見力で米アップル(Apple)を牽引してきた共同創業者スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)氏の死はあまりにも大きく、先ごろ新最高経営責任者(CEO)に就任したティム・クック(Tim Cook)氏は、ライバル企業が猛追をかけるなか、一層の重責を担うことになった。

 ジョブズ氏死去が発表された6日のアップルの株価は、クック新体制に対する投資家心理の揺らぎを反映し、終日1~1.7%の幅で上下を繰り返した後、前日比0.23%安の377ドル37セントで引けた。とはいえ、市場関係者らに言わせれば、ジョブズ氏の退場は十分予測されていた。長年にわたるすい臓がんとの闘いを経たジョブズ氏は、今年初めごろには一見して分かるほどやつれており、ついに8月、CEOを辞任し、自ら選任したクック氏に後継を託した。

 アナリストたちはクック新CEOについて、短期的には現在の高収益に支えられ、成長を維持できると見ている。しかし、ジョブズ氏が抜きんでていた家電市場において長期的に勝ち馬を見抜く能力(これこそがアップルを世界的トップ企業に押し上げたジョブズ氏の才能の1つだが)となると、今後、疑問符がつくことになるだろうという。

■ジョブズ氏の先見性は「企業文化」

 ジョブズ氏は製品に対する選択眼が稀有で、打ち出す製品は消費者のニーズにぴたりとはまった。「けれど、車輪が外れるわけではない。スティーブ(ジョブズ氏)の才能は、アップルの企業文化の中にしっかり根付いている」と、英調査会社ガートナー(Gartner)のアナリスト、バン・ベーカー(Van Baker)氏は楽観する。

 証券大手カナコード・ジェニュイティ(Cannacord Genuity)のマイケル・ウォークリー(Michael Walkley)氏も、「ジョブズ氏とアップル経営陣は、将来の成功と革新のために、才能を育む突出した基盤と企業文化を築いてきたと思う」と動じていない。

■今後は「ジョブズ色」薄く

 シリコンバレー(Silicon Valley)のフリーランスITアナリスト、ロブ・エンダール(Rob Enderle)氏は、ジョブズ氏の死の直前、同氏について「製品テストの最終関門」だと表現していた。「彼を通さない製品はなかった。今後、新製品が発表されていくにつれ、ジョブズ色は薄まっていくだろう」

 別のベテランマーケッターは、ジョブズ氏のカリスマ性も指摘する。病気療養中の今年3月に「iPad」最新型モデルの発表を自ら行ったときに象徴されるように、ジョブズ氏が新製品を発表するたび、聴衆はスタンディング・オベーションを送った。対照的にクック氏が4日に発表した「iPhone 4S」は、期待された次世代の「iPhone 5」でなかったことから市場に落胆で迎えられ、アップル株の下落を招いた。

■経営手腕そのものが期待されるクック氏

 アップル勤続13年目のクック氏は、ヒット製品のクリエイターとみなされてこそいないが、近い将来、競合他社が強力なライバルとして台頭してきた時に、その才能の真価が発揮されるだろう。

 クック氏はこれまで裏方として製造の外注化や流通調整を進め、パソコンの「マッキントッシュ(Macintosh)」シリーズから「iPods」「iPhones」「iPads」といった新製品が倉庫で滞って時機を逸することのないよう努めてきた人物だ。部品製造に関する交渉力にも長け、製造コスト削減、利益率の拡大に貢献してきた。

 カナコードのウォークリー氏は、クック氏について「CEOという新たな役職は非常に適任だ。供給チェーン管理、ハードウエア/ソフトウエア設計、製品マーケティングといった分野に、彼の意のままに動ける才能ある経営陣を擁している」と評価する。

「(ジョブズ氏の死によって)アップルの魔術が失われたとは思わない」と、ガートナーのベーカー氏も同感する。発表されたばかりの「iPhone 4S」に対する反応は喧々囂々(けんけんごうごう)だが、「この騒ぎが一段落した頃には、何億という人がiPhone 4Sを手にしているだろう」

 Sterne AgeeのITアナリスト、ショー・ウー(Shaw Wu)氏も、「iPhoneもiPad もまだ採用曲線の初期の段階にある。また、テレビ放送やビデオ・ストリーミングなど、(アップルにとって)未開拓の市場も残っている」と指摘。企業としてのアップルの未来は明るいと話している。(c)AFP/Glenn Chapman

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