【8月22日 AFP】株価の下落が止まらない。欧米各国が指導力を発揮できない中、景気後退(リセッション)の懸念は膨らむ一方で、この状況が自己達成予言となって景気を悪化させる危険を専門家は警告する。

 まだ世界の先進工業国が完全に行き詰まったわけではないと主張するエコノミストらの間では、不安の正体を定義する言葉として、「ネガティブ・フィードバック・ループ(悪循環)」という表現が使われる回数が増えてきた。

 平たく言えば、金融市場がパニック状態に陥ることで消費者や企業に不安が広がり、消費が冷え込む――その結果、「大不況」脱出から2年足らずで新たな経済収縮に突入しつつある、ということだ。財政赤字削減の政治的圧力と債務危機への対応に追われる各国政府は徐々に、悲観論を払拭(ふっしょく)する手だてを失いつつある。

■欧米は景気後退に「危険なほど近い」

 米ドルの価値が急落する中、市場では安全資産――米国債、スイスフラン、日本円など――へと資金を逃がす動きが顕著で、経済成長の足を引っ張っている。欧米のエコノミストらはこぞって世界経済成長見通しを引き下げた。

 投資銀行モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)は、「米欧は今後6~12か月間、2四半期連続のマイナス成長と定義される景気後退に危険なほど近い水準にある」と、成長見通しを修正。「低成長と活気のない資産市場とのネガティブ・フィードバック・ループが欧米で起きつつあるようだ。欧米で財政引き締めが予測されるため、これはますます悪化するだろう」と分析した。

 また、米大手銀ウェルズ・ファーゴ(Wells Fargo)のチーフエコノミスト、ジョン・シルビア(John Silvia)氏は「欧州中央銀行(ECB)、米連邦準備制度理事会(FRB)、米政府の適切な政策介入がなければ、経済と金融市場の負のスパイラルが自己強化していく可能性は高い」と述べる。

■政府に打つ手なしか

 各国政府も中央銀行も、次第に八方ふさがりに追い込まれている。欧州でも米国でも、景気刺激策として金利を引き下げる余地はほとんどない。中銀が資金流動性を高める目的で量的緩和に踏み切ることは可能だが、実際に景気が刺激されるかどうかは定かでない。

 ギリシャ、ポルトガル、アイルランドの緊急援助で欧州の経済大国の台所事情も苦しくなっており、これ以上の資金注入には政治家も国民も否定的だ。しかしECBは、景気刺激策として紙幣を増刷する権限を持っておらず、ニコラ・サルコジ(Nicolas Sarkozy)仏大統領とアンゲラ・メルケル(Angela Merkel)独首相の16日の会談では、成長・救済資金調達のためのユーロ共同債の発行を認めなかった。

 FTNファイナンシャル(FTN Financial)のクリス・ロー(Chris Low)氏は「欧州には、もっと意味のある解決策が必要だ。ECBには、自らの債務危機を解決する手段が備わっていない」と指摘する。

■FRBに妙策あるか?26日の会見に注目

 一方、欧州では流動性に問題のない各国政府、特に仏政府に対し、赤字削減圧力が高まっている。

 これは米国でも同じだ。米国では「大恐慌」脱出時を参考に産業育成計画を立てるべきとの声も上がっていたが、8月5日のスタンダード&プアーズ(S&P)による米国債格下げと、共和党の財政支出増額拒否を受けて、この案も実現はしない見通しだ。

 バラク・オバマ(Barack Obama)米大統領は今後数週間以内に、何らかの穏健な成長刺激政策を打ち出すとみられている。またFRBも、成長促進の切り札となる政策はまだ残っていると示唆しており、26日のベン・バーナンキ(Ben Bernanke)議長の会見に注目が集まっている。

(ただ、バーナンキ議長の声明も解決策とはならない可能性もある。というのも、2012年米大統領選への出馬を表明した共和党のリック・ぺリー(Rick Perry)米テキサス(Texas)州知事は前週、バーナンキ議長がこの時期に量的緩和を行えば「裏切り行為」になると発言しているからだ。(c)AFP/Paul Handley