【8月7日 AFP】米大手格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は5日、史上初めて、米国債の格付けを「AAA」から「AA+」に引き下げた。米国の債務支払い能力の信頼性が下がったことを示すサインだ。

 今週14兆6000億ドル(約1140兆円)に達した米国債の発行残高は、国内総生産(GDP)比で100%と、イタリアとほぼ同じ水準になった。そのイタリアの国債は債務不履行(デフォルト)の懸念から売られている。

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 米政府は現在も支出1ドルあたり40セントを借り続けている。その一方で米経済はほとんど成長しておらず、財政再建に必要な歳入を得ることもできない。

 中国は1兆1000億ドル(約86兆円)、日本は9000億ドル(約71兆円)の米国債を保有しているなど、米ドルと米国債の存在感は非常に大きい。米政府のデフォルト懸念は世界金融システムに不安材料を与えるだろう。米経済と米ドルが世界で果たしている役割の大きさを考えると、米国債の格下げは世界経済全体に波及するはずだ。

 しかし、米ドルと米国債は世界中で広く保有されていて、世界の金融と貿易を支えている。それを根拠に多くのアナリストが、格下げの影響は少なくとも短期的には限定的だと考えている。

■過去に同例なし

 理論上は、国債が格下げされた国の政府は、ドイツのようにAAAの格付けを持つ国と比べて資金調達コストが上がる。このことは財政健全化を促す警告の役割を果たす。また、格下げされた国の通貨の価値は、経済が強い他国の通貨に対して下がる。

 米国債格下げの影響を予想するのは難しい。日本は過去10年で2度、国債の格付けを引き下げられた。現在の日本国債の格付けは「AA-」で公的債務はGDP比で200%を超えるが、依然としてきわめて低い金利で資金を調達している。

 米金融大手ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)は7月、「米経済と米国債市場が大きいこと、米ドルが準備通貨としての地位を確立していることから、歴史の中に現在と同じ状況を見つけることは不可能だ」と、格下げの影響の予測は容易ではないと述べていた。

 ドイツ銀行のオーウェン・フィッツパトリック(Owen Fitzpatrick)氏は、「歴史の中では色々な出来事が起きてきた。それらの出来事に対するマーケットの反応もある程度は分かる。しかし、米国債が格下げされたことは前例がない。未知の領域だ」と語った。

■ローンの金利が上がる可能性も

 自らも米国債市場の大手プレーヤーであるゴールドマン・サックスは、「格下げが米国債売りを強いることはない」として、格下げの衝撃は大きくはないだろうとの見方を示していた。事実、4日に米国債は年初来高値をつけ、利回りは最低水準に下がった。さらに、同週に実施された数百億ドル分の新規国債の入札も順調だった。

 一方、ゴールドマンは株式市場で「少量の」売りが出る可能性は指摘していた。5日のダウ工業株30種平均は、S&Pの米国債格下げのうわさで400ポイント以上急落した。もっとも、取引終了までに300ポイント値を戻した。

 米国債を貸し出しや担保に使っている銀行業界では、特に銀行間で現金を担保に債券を貸し借りする「レポ市場」で大きな影響が出る可能性がある。ゴールドマンは、格下げ後はレポ市場で米国債の価値が1%ほど下がり、銀行の資金調達コストが上がる可能性があると話している。

 米財務省は5日午後、米国が保有する米国債のリスク・ウエイトは変わらないと発表した。格下げによる金融機関への影響を緩和する狙いがあるとみられる。

 しかし、連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック、Freddie Mac)や連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ、Fannie Mae)など、米政府の保証に依存して債券を出している金融機関や、「大きすぎて潰せない」ために政府が暗黙の保証を与えているとみなされている大銀行には国債格下げの影響が出てくるだろうとみている専門家は多い。こういった金融機関は資金調達コストが上がり、ひいては一般の人が銀行からお金を借りるときの利率が上がる可能性がある。

 ノーベル経済学賞を受賞した経済学者のポール・クルーグマン(Paul Krugman)氏は、米紙ニューヨーク・タイムズ(New York Times)への寄稿で「米国を判断する上で、格付け会社より不適任な人たちを探すのは難しい」と皮肉った。

 同氏は、「サブプライムの債券に格付けをした人たちが、今度は自分たちが財政政策の審判役をすると宣言したって?本気か?」と書き、S&Pが国債格付けのような問題に適切な判断をする能力があるのか疑問を呈した。(c)AFP/Paul Handley

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