【8月6日 AFP】このところの世界的な経済危機が展開するにつれて、普通の人が戸惑うような逆説的な現象が起きている。

 ユーロ圏は危機にひんしているといわれるが、ユーロは依然として強い。評論家は、格付け会社は同程度の負債を抱えた一部に国に対して格下げを警告しながら、その他の国は見逃していると批判する。

 そして投資家は、日本が国内総生産(GDP)比で先進国随一の借金大国である事実を忘れたかのように「円買い」に走る。しかし、こういった現象を丁寧に見ていくと、今起きていることへの理解を深める上で役に立つだろう。

■逆説その1:ユーロ高

 欧州では、国際的な財政支援を受けながらも再び債務危機に直面しているギリシャに加え、イタリアとスペインでも国債利回りが急上昇し、デフォルト(債務不履行)懸念が浮上した。にもかかわらず、ユーロは依然として対ドルで買いが優勢だ。

「強いユーロ」の理由は、ドルが弱すぎるからだ。米経済成長は今年に入って目に見えて減速し、アナリストらは口をそろえて下半期の景気後退入りを警告している。ドル安が進んだ背景には、米連邦準備制度理事会(FRB)が前年11月に導入した量的緩和政策があり、同政策が今年6月末に終了したことでさらに景気後退懸念が広がった。

 ただ、そのユーロも、対円と対スイスフランでは売られている。

■逆説その2:格付け会社

 大手格付け会社の信用格付けは、債務残高に関わらず国によって偏りがある。たとえば、債務残高がGDP比152%のギリシャ国債の格付けを「非常に脆弱」へと引き下げた米スタンダード&プアーズ(S&P)は、同137%の債務を抱えるジャマイカにはギリシャより高い格付けを与えている。

 これについては、2008年の世界金融危機を引き起こした米サブプライムローン危機を事前に警告できなかった格付け会社への批判がいまだ強いことが、理由として挙げられるだろう。今回、格付け各社はギリシャがデフォルトに陥る恐れを現実的なものとしてみており、追加支援策として提案された民間セクターによる自発的な国債ロールオーバーもデフォルトとみなす可能性を示している。

 とはいえ、こうした格付け会社の悲観的な評価も先行き不安をあおる材料になっていると指摘する声もある。ある国の格付けを引き下げることで、その国の借り入れコストが上昇するという悪循環が生まれるからだ。

■逆説その3:止まらない円高

 最後の逆説は、戦後最高値に迫る円高だ。日本は深刻な不況に苦しんでいるのに、投資家の円買い圧力は止まらない。国内の経済状況に照らしても、この円の「強さ」は異常だ。

 円は、投資家にとって「避難所」と位置づけられている。日本の公的債務残高はGDP比252%と世界でも有数の借金大国だが、日本国債の大半は国内の貯蓄によって支えられているためだ。

 しかし、急激に進む円高は輸出企業の収益を直撃し、東日本大震災からの復興の途上にある日本経済を脅かしている。日本政府・日銀は4日、円高阻止を目的とした円売り介入に踏み切った。しかし、観測筋の間では効果は限定的との見方が主流だ。

■各国に残された道は

 大西洋の両岸で経済が減速するなか、欧米各国政府は緊縮財政へと舵を切りつつある。国家が財布のひもを締めれば経済の回復は見込めないが、膨らんだ債務に財政破たんの懸念が拡大し、格付け会社が赤字削減へと圧力を強める現状においては、歳出を抑えつつ景気活性化を目指すという難しい道しか各国には残されていないのだ。(c)AFP/Sophie Deviller