【8月2日 AFP】「007」シリーズの悪党たちが、最も襲撃したい場所─それは恐らく、米ニューヨーク(New York)、ロウアー・マンハッタンの陰鬱なビルの地下にある「金」の貯蔵庫だろう。いや、悪党ばかりではない。今、喉から手が出るほど「金」が欲しいという政府だってあるだろう。

 金の価格は前月29日、1オンス1632.8ドル(約12万6000円)と史上最高値を更新した。ドルやユーロといった貨幣や株を、安全な金と交換する動きが加速したためだ。

 米国は、金を世界最多の8133トン保有している。これは、金の保有量世界第2位のドイツの倍以上にあたる。米国は金をフォートノックス(Fort Knox)とウエストポイント(West Point)にも保管しているが、国内そして世界最大の7000トンが眠っている場所が、米連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board)傘下のニューヨーク連銀の地下の保管庫なのだ。

■地下深くの保管庫へ入る

 AFP記者は、マンハッタン(Manhattan)島の岩盤をくりぬいて作られた地下5階の保管庫に案内してもらった。

 まず、同支店に入るだけでも入口で、防弾・防音性のスクリーンを通して、身分を証明する書類一式を提示する。きらびやかなロビーに入ったところで、係員に付き添われ地下へのエレベーターに乗る。降りると、トンネルを歩いて保管庫へ。入口はドアではなく巨大な鋼製シリンダで覆われており、これが回転することで通路が開いたり閉じたりする。

 中に入ると、檻のような金庫の中に3500億ドル(約27兆円)相当の金塊が箱に入り、天井まで積み上げられていた。この「金の塔」の入り口は3重にロックされており、解錠の際には、異なる部署から3人の行員が動員されることになっている。

 要塞化した保管庫と、それを守る武器携行のガードマンの群れ。それだけでは足りないのか、記者は、取材ノートを取り上げられてしまった。見取り図をスケッチさせないためだ。写真などはもってのほかだ。

 ここで保管されている金の所有者は主に、財政上の安全だけでなく物理的な安全も確保したいと考えている世界36か国の政府だ。所有者の内訳については一切公表されていない。それもまた、映画『ダイ・ハード3』以外では一度も襲われたことのない連邦準備銀行のセキュリティー対策の一環なのだ。

■金は本当に安全か

 動乱の時代に金の価格が高騰するのはよくあることだ。1980年1月、旧ソ連軍のアフガニスタン侵攻、イラン革命、原油価格の高騰が相まって、金の価格は1オンス850ドルに高騰。ただし、その後は下落し、2006年6月には543ドルまで値を下げた。

 そして今、不安定なユーロ、精彩を欠いたドル、米国のデフォルト(債務不履行)への懸念が、個人投資家と機関投資家を金に殺到させている。ドル安におびえた各国の中央銀行もこの流れに合流。金の保有量7トン未満だったメキシコは、今年初めに93トンの金を買い入れた。ロシア、タイ、中国も金を買い漁っている。

 だが、米メリーランド大(University of Maryland)のピーター・モリシ(Peter Morici)教授は、金は安全そうに見えるが、それもまた絶対的ではないと警告した。「人々は金がこの世で唯一の安全な隠れ場所と考えていますが、現実世界で安全なのは、恐らく現金だけ。金は歴史的に見て、上がった分だけ、下がることも大いにあり得るのです」(c)AFP/Sebastian Smith