台頭する「コピー香水」と闘う香水・香料業界
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【11月29日 AFP】高級ブランド香水とそっくりの香りを売り物に、安価な「コピー香水」を販売するウェブサイトが増えている。これらのサイトは、人気香水のコピー製品であることを公言し、売り上げを伸ばしている。
■高級品を化学分析、取り締まりはほぼ不可能
その1つ、英国の香水販売サイト、パフューム・パーラー(Perfume Parlour)では、「トップノートからミドルノート、ベースノートまで高級ブランド香水とまったく同じ」香油を、わずか10分の1程度の価格で販売する。ガス液体クロマトグラフィー(GLC)によって高級ブランド香水の化学組成を分析し、独自製品を製造しているのだという。
高級バッグなどの偽造品と異なり、香水のコピー製品を「かぎ分ける」のは簡単ではない。香水をつけた人が街中でそのボトルを見せびらかすことはないからだ。
さらに、コピー製品がボトルの形状やロゴといった商標を侵害していない限り、香りが似ているというだけでは、差し止め訴訟を起こすことも難しい。
世界の市場規模が80億ドル(約6700億円)という香水業界。その9割の企業が参加する国際香粧品香料協会(International Fragrance Association、IFRA)のジャンピエール・ウリ(Jean-Pierre Houri)会長は、「絵画の偽造は違法だということに異論を挟む人はいない。だが、香りの偽造は違法とはいえない、というのが司法界の大勢を占める見解だ」と嘆く。
■「秘密主義」で自衛
まねされないために香水業界が取ってきた伝統的手法は、秘密主義だ。理論的には香水の成分を特許で保護することは可能だが、調合が明らかになるのを嫌って特許を申請しない企業が多い。
消費者の健康や安全を守るため香水成分の公表を求める声もあるが、業界側は、香水の化学組成が自由に手に入るようになれば、ちょっとした工夫で法の網をかいくぐれるようになり、知的財産権侵害に歯止めが利かなくなると主張している。
ことし米カリフォルニア(California)州で提案された住民の知る権利に関する法案では、香水に用いられた化学物質の詳細の開示を企業に求めている。現在この法案の審議は立ち往生しているが、IFRAでは世界各地で同様の法案が施行されるのは時間の問題だと見ている。
IFRAは最近、世界の加盟各社が使用している香水用の化学物質約3000種のリストを公開したが、現時点では業界としてそれ以上のことをする意志はないとしている。
■シャンプーや洗濯用洗剤にも影響
香りをマーケティング戦略の要に位置付けているシャンプーや洗濯用洗剤のメーカーも、この問題と無関係ではいられない。
英国の調香師でマーケティングコンサルタントでもあるアラン・マクリッチー(Allan McRitchie)氏によれば、現行法の下で特定の香料を法的に保護するには、その香りを実現するための技術や、用いた材料、あるいは抗菌作用などの二次的な効用を書面にして裁判所に提出しなければならない。「それでも多くの香料がそういったカテゴリーから漏れてしまうのです」
香水業界の大半は、「香りの知的財産権保護」のためには、香りが芸術の1つであり、その製造技術や香りそのものが著作権保護の対象であると認めさせる必要がある、と考えている。ただ、近年の世界的な判例の傾向は、香水業界で保護すべき対象は技術的ノウハウだけ、というものだ。
■「香りは芸術」、業界の主張
しかしIFRAは前月、仏化粧品大手ロレアル(L'Oreal)がフランスの控訴裁判所に起こした別の香水メーカーを相手取った訴訟で、香水を芸術の形態として分類すべきとの報告を提出した。司法判断は12月に下される予定だ。
政治的にもIFRAは今月、ある欧州議会議員をパリ(Paris)の研究所に招き、香水を作る作業を詳しく見学させた。来年には議員を対象にしたワークショップの開催も検討している。
「香りは物語に似ている」と話すのは、高級ブランドの香水や家庭用品に香料を提供している日本の高砂香料工業(Takasago International)の調香師でパリを拠点に活躍するロランス・ファニュエル(Laurence Fanuel)氏だ。「芸術の定義を、人間の感覚を刺激して感情を呼び覚まし、思想を喚起するものだと考えれば、香水が芸術に分類されない理由はありません」
新しい香りを作るとき、ファニュエル氏は他の芸術や料理、過去にかいだ匂い、そして「考えもしなかったもの同士を混ぜることへの情熱」からインスピレーションを得るという。
「香りが芸術だとすれば、他の芸術と同じように保護することもできるはずです」
(c)AFP/Emma Charlton
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■高級品を化学分析、取り締まりはほぼ不可能
その1つ、英国の香水販売サイト、パフューム・パーラー(Perfume Parlour)では、「トップノートからミドルノート、ベースノートまで高級ブランド香水とまったく同じ」香油を、わずか10分の1程度の価格で販売する。ガス液体クロマトグラフィー(GLC)によって高級ブランド香水の化学組成を分析し、独自製品を製造しているのだという。
高級バッグなどの偽造品と異なり、香水のコピー製品を「かぎ分ける」のは簡単ではない。香水をつけた人が街中でそのボトルを見せびらかすことはないからだ。
さらに、コピー製品がボトルの形状やロゴといった商標を侵害していない限り、香りが似ているというだけでは、差し止め訴訟を起こすことも難しい。
世界の市場規模が80億ドル(約6700億円)という香水業界。その9割の企業が参加する国際香粧品香料協会(International Fragrance Association、IFRA)のジャンピエール・ウリ(Jean-Pierre Houri)会長は、「絵画の偽造は違法だということに異論を挟む人はいない。だが、香りの偽造は違法とはいえない、というのが司法界の大勢を占める見解だ」と嘆く。
■「秘密主義」で自衛
まねされないために香水業界が取ってきた伝統的手法は、秘密主義だ。理論的には香水の成分を特許で保護することは可能だが、調合が明らかになるのを嫌って特許を申請しない企業が多い。
消費者の健康や安全を守るため香水成分の公表を求める声もあるが、業界側は、香水の化学組成が自由に手に入るようになれば、ちょっとした工夫で法の網をかいくぐれるようになり、知的財産権侵害に歯止めが利かなくなると主張している。
ことし米カリフォルニア(California)州で提案された住民の知る権利に関する法案では、香水に用いられた化学物質の詳細の開示を企業に求めている。現在この法案の審議は立ち往生しているが、IFRAでは世界各地で同様の法案が施行されるのは時間の問題だと見ている。
IFRAは最近、世界の加盟各社が使用している香水用の化学物質約3000種のリストを公開したが、現時点では業界としてそれ以上のことをする意志はないとしている。
■シャンプーや洗濯用洗剤にも影響
香りをマーケティング戦略の要に位置付けているシャンプーや洗濯用洗剤のメーカーも、この問題と無関係ではいられない。
英国の調香師でマーケティングコンサルタントでもあるアラン・マクリッチー(Allan McRitchie)氏によれば、現行法の下で特定の香料を法的に保護するには、その香りを実現するための技術や、用いた材料、あるいは抗菌作用などの二次的な効用を書面にして裁判所に提出しなければならない。「それでも多くの香料がそういったカテゴリーから漏れてしまうのです」
香水業界の大半は、「香りの知的財産権保護」のためには、香りが芸術の1つであり、その製造技術や香りそのものが著作権保護の対象であると認めさせる必要がある、と考えている。ただ、近年の世界的な判例の傾向は、香水業界で保護すべき対象は技術的ノウハウだけ、というものだ。
■「香りは芸術」、業界の主張
しかしIFRAは前月、仏化粧品大手ロレアル(L'Oreal)がフランスの控訴裁判所に起こした別の香水メーカーを相手取った訴訟で、香水を芸術の形態として分類すべきとの報告を提出した。司法判断は12月に下される予定だ。
政治的にもIFRAは今月、ある欧州議会議員をパリ(Paris)の研究所に招き、香水を作る作業を詳しく見学させた。来年には議員を対象にしたワークショップの開催も検討している。
「香りは物語に似ている」と話すのは、高級ブランドの香水や家庭用品に香料を提供している日本の高砂香料工業(Takasago International)の調香師でパリを拠点に活躍するロランス・ファニュエル(Laurence Fanuel)氏だ。「芸術の定義を、人間の感覚を刺激して感情を呼び覚まし、思想を喚起するものだと考えれば、香水が芸術に分類されない理由はありません」
新しい香りを作るとき、ファニュエル氏は他の芸術や料理、過去にかいだ匂い、そして「考えもしなかったもの同士を混ぜることへの情熱」からインスピレーションを得るという。
「香りが芸術だとすれば、他の芸術と同じように保護することもできるはずです」
(c)AFP/Emma Charlton
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