【7月28日 AFP】ロシアの農場経営者イルシャト・グメロフ(Ilshat Gumerov)さんは照りつける太陽の下、乾ききった畑のど真ん中で絶望の表情を浮かべていた。

 ロシア西部タタルスタン(Tatarstan)共和国ボルガ(Volga)地方中部の700ヘクタールの土地。この数週間、雨は一滴も降っていない。干からびた麦の穂を指でつまみながら、収穫の3分の2はだめになってしまったとグメロフさんは肩を落とす。「破滅的だ。今年は利益を期待できない。家畜の飼料を買うだけで精一杯だろう」

 モスクワから800キロ、イスラム教徒が多いこの地方には4月からまったく雨が降っていない。数週間前から気温は連日30度を超えている。冬の雪どけで冬季収穫の穀物がやられてしまった後の災難だ。干ばつに打撃を受けているのはグメロフさんたち農家だけではない。世界の穀物輸出国として上位を目指すロシア全体、そして世界の穀物消費者も同じだ。

 ロシアの83の地方のうち、主に欧州側に位置する23の地方はこの干ばつで非常事態を宣言した。ロシアの農業省によると、同国の耕作可能な土地の約20%にあたる1000万ヘクタールが、この熱波で完全に干上がってしまった。農産物市場研究所(Institute for Agricultural Market Studies)のドミトリー・リルコ(Dmitry Rylko)所長は、「欧州側のロシアで、これほどの高温と小雨は過去に例がない。今年の干ばつはきわめて異常だ」と訴える。

 ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)首相は前週、ビクトル・ズプコフ(Viktor Zubkov)第1副首相に「事態は悪化する一途だ」と語り、対策を強化するよう命じた。

 リルコ所長によると干ばつには地域差があり被害が最も大きいのがボルガ地方からウラル(Urals)地方、南西部だ。一方でシベリア(Siberia)やロシア南部での収穫は比較的好調だという。

 タタルスタン共和国の3分の1は、腐植土に富むチェルノーゼムと呼ばれる黒色の肥沃な土壌に覆われている。しかしその土壌とボルガ川流域の水源をもってしても、ロシア史上に類を見ないこの干ばつに対処できずにいる。

■国際穀物市場での躍進に最悪のタイミング

 穀物輸出をこれまでの倍以上の年間4000~5000万トンに伸ばし、国際穀物市場での主導権争いを加速したばかりのロシアにとって、干ばつのタイミングは最悪だった。それどころか、昨年の生産量9700万トンから、今年は8000万トンへと落ち込みが予測される。エレーナ・スクリンニク(Elena Skrynnik)農相はすでに、穀物の輸出量は昨年の2100万トンから今年は2000万トンを割り込むだろうと発表した。

 国内だけで年間7700万トンの穀物を消費するロシアは今年、備蓄分に頼ることになろう。6月1日現在の備蓄高は2400万トンだ。

 ロシアの小麦輸出高は世界第3位。中程度の品質の小麦に限れば米国に次いで世界2位だ。リルコ所長によるとこの干ばつによる影響はすでに国際小麦市場にも現れており、わずか2週間のうちにロシア産小麦の価格は165ドル(約1万4500円)から195ドル(約1万7000円)に急騰。それでも収穫減に悩む農家の懐の穴埋めにはならない。

「ブーメラン効果でほかの産品の価格まで比例して上がっている」と、タタルスタンの農業団体の会長を務めるカミヤル・バイテミロフ(Kamiyar Baitemirov)氏はこぼす。凶作の翌年が豊作になることはないため、回復は1年ではなく2年はかかるだろうとリルコ所長は予測する。

 中東や北米の穀物市場への進出を図ってきたロシアは、最も目立つエジプトでは過去3~4年で小麦のシェアの半分を占めるまでになった。リルコ氏は最後に「もう一度やり直さなければならない。しかし当然のことだが、まったくのゼロから始めることに比べれば難しくはないはずだ」と語った。(c)AFP/Eleonore Dermy