【7月10日 AFP】太陽エネルギーだけで空を飛ぶソーラー飛行機の試作機「ソーラー・インパルス(Solar Impulse)」が8日朝(日本時間同日夕)、スイスで夜間を通した26時間の連続飛行に成功した。

 操縦したアンドレ・ボルシュベルク(Andre Borschberg)氏(57)は、居眠りをしないで記録達成できた要因として、ハイテクジャケットとヨガ、そして座り心地の悪い座面などを挙げた。

 ソーラー・インパルス社のベルトラン・ピカール(Bertrand Piccard)会長は、操縦士で同社最高経営責任者(CEO)のボルシュベルク氏の挑戦について「アンドレは、眠ることが許されていないのだよ」と語った。

 ボルシュベルク氏はジェット戦闘機の元パイロット。仮にボルシュベルク氏が飛行中に居眠りしたり、わずかでも操縦をおろそかにして機体が5度以上傾いた場合には、ボルシュベルク氏の着用しているジャケットのそでが振動するように設計されていたという。

■自動操縦なし、難易度の高い操縦

 ソーラー・インパルスには、自動操縦の機能がついていない。また、機体の翼長はジャンボジェット機と同等にもかかわらず軽量なため、風向きやちょっとした操縦に対して非常に反応しやすく、ボルシュベルク氏は注意力を維持し続ける必要があった。ボルシュベルク氏は飛行中に無線で「エアバスと同じ翼長にもかかわらず軽量な非常に特殊な機体なので、とても綿密に(操縦を)続ける必要がある」と説明した。

 また、地上ではボルシュベルク氏を支援するため、元宇宙飛行士や米航空宇宙局(NASA)の元主任テストパイロットなど多くの管制スタッフが、時速100キロ弱で飛ぶ機体の高度や迎角、進路や速度の数値を交替で監視し続け、常にボルシュベルク氏と連絡を取った。

■空調・与圧なし、気温はマイナス28度

 高度8000メートルでは日中でも気温がマイナス28度まで下がる。しかし狭いコックピットには暖房もなく、与圧もされていなかった。トイレもなくプラスチックの袋に用を足した。地上の管制チームはパイロットの体調も監視し続けた。

 ボルシュベルク氏はスイス上空を飛行中、酸素マスクをつけ、栄養補助食品や自家製のサンドイッチをつまみ、フランスの米菓子リオレやコーヒーを楽しんだという。着陸まであと数時間となったころ、ボルシュベルク氏は「素晴らしい気持ちだ」と語った。

■居眠り対策はヨガや座り心地の悪い座面

 着陸後、ボルシュベルク氏は、ヨガ運動と呼吸法で、体内の血流をうまく循環させることができたと語った。

 また、ピカール氏も記録達成後の8日になって、ボルシュベルク氏が居眠りしないで済んだことにもう一つ理由があると述べ、「ファーストクラスの座席ではなく、安い座席を使ったんだよ」と語った。

 夜間を通じた飛行は、7年前にソーラー・インパルス計画が始まったころからの課題だった。ソーラー・インパルスは、2013~14年までに海洋横断と大陸横断そして世界一周旅行の達成を目指している。(c)AFP/Peter Capella