【6月23日 AFP】メキシコ湾の原油流出事故が世界的な原油依存の落とし穴を無惨にも明るみに出す中、日本の自動車メーカー大手各社は、大規模な電気自動車(EV)市場の開拓に向けて加速を始めた。

 日産自動車(Nissan Motor)、ホンダ(Honda Motor)、トヨタ自動車(Toyota Motor)の各社は、排ガスゼロのEV市場が今後追い上げをみせ、将来的には従来のガソリン車を追い込んでゆくだろうとのビジョンに賭けに出たようだ。

 グリーンカーを支持する人々によれば、この賭けが勝利に終われば、自動車という概念そのものに変革が起きるという。自動車は、なめらかに、環境汚染をせずに、静かに走る電化製品になるのだ。

 市民団体の日本EVクラブ(Japan Electric Vehicle Club)も、この流れを活気づけているグループの1つ。5月には、自作の電気自動車で1回の充電で1003.184キロメートルを走行し、新世界記録を達成した。

■EVは新たな産業革命、普及はいつ?

 専門家は、EV用の充電ステーション網を十分に整備することが普及のカギになるという。これは「ニワトリと卵」問題としてEVの開発を遅らせる要因として長らくある問題だ。

 携帯電話を充電するように、深夜のオフピーク時間帯などに壁のソケットから充電できるEVは、乱高下するガソリン価格の脅威から消費者を保護するとともに、長期的にはガソリン車より経済的でもある。

 EVが革命的な変化をもたらすとみる専門家も、その普及速度についてはあまり楽観視していない。

 東海東京調査センターのアナリストは「新たな産業革命になるかもしれない」と述べる。「EVでは、従来の自動車部品メーカーが要らなくなる。自動車メーカーは実質的には電化製品メーカーになる」としながらも、EV市場の離陸にはまだ10年はかかるだろうとみている。

「バッテリーが効果的に車両にエネルギーを供給できるように改善されるには、少なくともあと10年はかかる。その後も、バッテリーの充電ステーションなどのインフラ整備にもっと長い年月がかかる」

 充電差し込み口のグローバルスタンダード策定や、リチウムイオン電池の十分な供給、電池の安全な廃棄など、ほかにも課題は残る。

 ミズノ・クレジット・アドバイザリー(Mizuno Credit Advisory)のアナリストによれば、バッテリーは現在、EV価格の半分ほどを占めており、1万~2万ドル(約90万~180万円)がかかっている。これを安価で長持ちさせることがカギになるという。

■始まるEV市場

 現在、多くの国で充電ネットワークの建設が始まっている。

 ベタープレース(Better Place)社は、デンマークとイスラエルでEVインフラ建設に従事した。ステーションで充電か電池交換かを選べるシステムで、政府機関やタクシー会社などの需要に焦点をあてている。

 日産は、オーストラリアのキャンベラ(Canberra)や英イングランドの一部地域など、世界各国で50のグループや自治体と、EVに対する補助金や、高速道路の優先車線などの優遇制度を提供するパートナーシップを結んだ。

 また、米カリフォルニア(California)州は、2012年からの操業を予定している5000か所の充電ステーション網の構築を支援したり、払い戻し金(リベート)を提供するなど、米国におけるEVの実験場としての態勢を整え始めている。ダウ・ジョーンズ(Dow Jones)によると、充電ステーションの多くは、レストランやホテル、ショッピングモール、教会など人々が集まる場所に設置されるほか、一部大手販売店では、顧客サービスとして電力を無償提供する計画もあるという。

 日本では、市当局が観光地などで行うイベントで多くの人がEVを体験している。(c)AFP/Hiroshi Hiyama