【6月17日 AFP】中国にある外資系企業の工場で、労働者のストライキや争議が相次いでいる背景には、企業イメージの悪化を気にする外資系企業が要求に譲歩する可能性に賭ける労働者側の読みがあると、専門家たちは分析する。

   「(労働者たちは)外国企業、特に目立つ企業からはもっと引き出せると感じているのではないか」と北京・清華大学(Tsinghua University)の経済学者、パトリック・ホバネツ(Patrick Chovanec)氏は見る。「中国の下請け業者たちは自社が世界にどう思われるか気にもしないだろうが、(発注元の外資系)企業はイメージを気にする」

■イメージ気にする外資系、「知名度」が標的に

 アップル(Apple)やデル(Dell)、ソニー( Sony)といった大手メーカーの製造を下請けしている台湾系大手電子機器メーカー、富士康科技集団(フォックスコン、Foxconn)の中国工場では、自殺者が相次ぎ賃金が2倍に引き上げられた。

 ホンダ(Honda)の中国工場も次々にストライキに見舞われ、賃上げに応じた。フォックスコンと同じ広東省深セン(Shenzhen)にある台湾の通信機器メーカー、美律実業(Merry Electronics)でも、ストライキを終結させるため作業員7000人の賃金を17%引き上げた。

 最新の動きでは、米ケンタッキー・フライド・チキン(KFC)が、北東部・遼寧(Liaoning)省瀋陽(Shenyang)市で組合が数か月におよび圧力をかけた結果、従業員2000人の賃上げに同意。また、中国北部にあるトヨタ(Toyota)の下請け部品工場でも今週、短期間ながらストライキが発生した。

 ホバネツ氏は一連の動きについて、90年代前半に米スポーツ用品大手ナイキ(Nike)のアジア工場の労働条件をめぐって巻き起こった批判と似ていると指摘する。「ナイキが標的になったのは、労働条件が最も悪かったからではない。ナイキなら目立つから注目度も高まり、それだけ回答を引き出せると(労働運動家たちが)考えたからだ」

■表ざたにならない中国企業の過酷な実態

 一方、国内企業ではなく外資系企業が相手なら中国政府も労働者の支援にまわりやすいことを、労働者側はよく心得ていると指摘するのは、香港に拠点を置く労働権利保護団体、中国労工通報(China Labour Bulletin)のジェフリー・クロソール(Geoffrey Crothall)氏だ。「中国企業のオーナーたちは政府高官とよほど関係が深い。その事実と一連の争議は大きな関係があると思う」

 国内工場の悪質な労働環境については国営メディアでも大きく取り上げられ、社会的混乱への懸念が高まる中、温家宝(Wen Jiabao)首相は今週、出稼ぎ労働者の待遇改善を呼び掛けた。しかしメディアが焦点を当てているのは外資系工場の争議で、中国企業の工場にはなんの問題もないような印象を与えている。

  「ストライキは普段、中国では報道されないが、われわれが知らないだけで、中国企業の工場でもたくさんあるはずだ」とクロソール氏は述べている。(c)AFP/Allison Jackson