【6月10日 AFP】中国の重工機械メーカー「四川騰中重工機械(Sichuan Tengzhong Heavy Industrial Machinery)」が、経営破たんした米自動車大手ゼネラルモーターズ(General MotorsGM)から高級オフロード車ブランド「ハマーHummer」を買収すると発表したことについて、各方面から交渉の先行きに疑問符が付けられている。

■自動車製造、貿易ともに経験ない騰中重工

 中国のアナリストらが最も戸惑っているのは、騰中重工が国際貿易の実績も自動車製造の経験もない点だ。シンクタンク上海情報センター(Shanghai Information Centre)で自動車業界分析を専門とする祝均一(Zhu Junyi)氏は「騰中重工は自動車部門での実績がない一民間企業。一方、ハマーは少数の顧客に向けたニッチブランドだ」と、事業の見通しに疑問を持つ。

 四川(Sichuan)省成都(Chengdu)を拠点とする騰中重工は、建設重機やエネルギー産業用機器に特化した機械メーカーだ。国内メディアもこぞって同社の経験のなさを指摘する。中国銀河証券(China Galaxy Securities)のエコノミスト、Zuo Xiaolei氏は新華社(Xinhua)通信に「乗用車の製造経験がないばかりか、ブランド管理も困難だろう」と語った。

■中国でのハマーの市場競争性にも疑問

 北米での近年のハマーの販売低迷の理由のひとつは、燃費効率の低さだ。中国ではまだステータスシンボルだが、米軍用車ハンビー(Humvee)をモデルとしたハマーは大気汚染を拡大するシンボルともみなされている。中国市場をハマー再生の鍵とみなす騰中重工にとって、環境問題は障害のひとつとなろう。

 観測筋はまた、ハマーのような国際的なブランドの管理能力が同社にあるのかどうかにも疑問を抱く。中国企業では、自動車大手の上海汽車集団(Shanghai Automotive Industry CorpSAIC)が2004年に買収した韓国の双龍自動車(Ssangyong Motor)の経営破たんという先例がある。

 これまでの中国企業の国際連携の大半は、中国国内における外国企業との提携が中心で、外国企業を国外で経営することではない、と米調査会社グローバル・インサイト(Global Insight)の市場アナリスト、ジョン・ゼン(John Zeng)氏は語る。

■買収申し入れは単なる宣伝行為とも

 こうしたことをクリアしても最後に残るハードルが、中国規制当局の承認だ。国営メディアは、当局がハマーの買収に反対すると読んでいる。

 しかし、許可が下りなかったとしても騰中重工の利益にはなる、とみるアナリストたちもいる。ハマーに買収を申し入れるだけで、無料の広報活動にほぼ等しいという理由だ。

 前述の上海情報センターの祝氏は「市場ではもっぱら、騰中のハマー買収は宣伝行為なだけだと語られている」という。「騰中重工は当局が承認がしないだろうとは分かっている。けれど、報道されることによってほとんど無名だった企業が、有名企業に変わることができる。何百億ドルを広告に費やしたって、同じ効果は得られないだろう」。(c)AFP/Joelle Garrus