【2月5日 AFP】(写真追加)彼は名前も名乗らないし、顔も見せない。ただニューヨーク(New York)の真ん中で人びとに現金を渡すだけ――。ニューヨーク・タイムズスクエア(Times Square)で4日、「ベイルアウト・ビル(『救済家ビル』、Bailout Bill)」なる人物が登場し、「救済ブース(Bailout Booth)」と名付けられたブースの中から人びとに現金を配った。

 ベイルアウト・ビルは、黒いサングラスをかけ、ニットキャップを目深にかぶり、人びとに最低50ドル(約4500円)、時にはもっと高額の現金を手渡す。ニューヨークは4日、気温0度を下回る寒さだったが、ブースの前には数百人が列をつくり、5時間以上も並ぶ人も出た。多くは景気悪化の影響を受けた人びとだ。一連の経済危機で、ニューヨークだけでも数万人が職を失っている。

 50ドルを受け取ったレオン・マクニール(Leon McNeil)さん(25)は、「とても感謝しているよ。いくらか母親に渡そうかな」と語った。マクニールさんは前年12月、業績の悪化した百貨店メーシーズ(Macy's)を解雇されている。

 ベイルアウト・ビルの目的は、処分したい財産の広告を掲載することができるウェブサイトを宣伝することだ。また、政府が金融機関などを救済(ベイルアウト)するのと同じ方法で、一般の人びとを助けることも目的の1つだという。

 現金を受け取りたい人びとは、カメラとマイクをもったアシスタントに自らが抱える問題を話すことを求められる。マリオと名乗る杖をついた男性が「母親が死にかけているんだ」と言うと、アシスタントはマリオさんを抱擁し、「さあ、ビルに尋ねてみましょう」と答える。すると、ベイルアウト・ビルが「今日は150ドル(約1万3000円)をあげよう」という具合だ。

 ベイルアウト・ビルはこの日でニューヨークでの2日間の「救済」を終え、次はワシントンD.C.(Washington D.C.)に向かうという。その後、ボストン(Boston)やフィラデルフィア(Philadelphia)でも「救済」を行うという。ベイルアウト・ビルが「救済」を終えるまでに、50万ドル(約4500万円)が配られる予定だという。

 ベイルアウト・ビルの広報担当者は、「ビルは本名を明らかにすることはできない。危険すぎるからね。みんなが彼が金持ちだということを知れば、そう、やっかいなことも起こるからね」と語る。また、「ブース周辺には非番の警察官が立っている。もちろん武装もしている」と語り、よからぬことは考えないようにと警告した。(c)AFP