ウォール街を永遠に変えた激動の1週間
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【9月22日 AFP】(一部訂正、写真追加)政府が無干渉主義を捨て、史上類のない民間金融機関の救済策を打ち出した激動の1週間を経て、米金融の中心地、ニューヨーク(New York)のウォール街(Wall Street)はこれまでとはまったく変わってしまった。
政府が20日発表した救済策は、最大7000億ドル(約75兆円)の不良資産の買い取りなど、総額1兆ドル(約107兆円)の公的資金を投入するというもの。この額は、フランスの国内総生産6か月分に相当する。
1929年の世界大恐慌以来、最悪の金融危機に直面したジョージ・W・ ブッシュ(George W. Bush)大統領率いる共和党政権に、解決の選択肢はあるのだろうか?
■崖っぷちに追い詰められた金融システム
米国の巨大な金融システムが崩壊寸前まで追い詰められたのは、前週半ばのことだ。金融システムの「血液」たる資金の流動性が低下し、「脈拍」にあたる短期金利は急上昇した。中央銀行が注入した大量の「モルヒネ」、すなわち緊急資金供給も、何の効果も生み出さなかった。
事態は、米上院・銀行住宅都市委員会のクリストファー・ドッド(Christopher Dodd)委員長(民主党)が「米国の金融システムの完全なるメルトダウンは数日後に迫っているかもしれない」と危惧(きぐ)を表明するほど深刻で、世界の金融不安の心臓部から病巣を摘出する緊急手術が必要だった。
■「緊急手術」で「米社会主義共和国」誕生?
こうした状況で、ヘンリー・ポールソン(Henry Paulson)米財務長官は18日、住宅バブルでふくらんだ金融機関の不良資産を政府が買い上げるという、前例のない救済計画を発表する。これは言い換えれば、米連邦準備制度理事会(FRB)が地球上で最大のヘッジファンドと化すことを意味する。
次なる措置としては、経営不振に陥った政府系の連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ、Fannie Mae)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック、Freddie Mac)、そして米保険最大手アメリカン・インターナショナル・ グループ(American International Group、AIG)の国有化が考えられる。
政府が企業株を保有する例のない米国で極めて異例の措置に、ビル・クリントン(Bill Clinton)政権でアドバイザーを務めたエコノミストのヌリエル・ルービニ(Nouriel Roubini)氏は、「ようこそ、USSRA――社会主義合衆共和国アメリカ(the United Socialist State Republic of America)」と皮肉をとばした。
一方、米証券大手ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)出身のポールソン財務長官は、「もはや個別の対応をしている場合ではない。根を断つべき時だ」と宣言。政府・議会関係者を集め、週末返上で救済計画の法制化を進めている。
■14日以降の金融市場の混乱
15日の月曜日から、いったい何が変わったのか。
14日の時点では、政府の金融問題担当者らは、危機の打開はまだ可能だと考えていた。資金難が伝えられ株価が急落していた米証券大手リーマン・ブラザーズ(Lehman Brothers)の救済について、3日間にわたって検討したポールソン財務長官とベン・ バーナンキ(Ben Bernanke)FRB議長は、リーマンが破綻(はたん)しても国際金融市場に及ぼす「システム的リスク」はないと判断、救済はしないと決定した。
翌15日、リーマンは破産法の適用を申請。連鎖破綻を恐れた同業メリルリンチ(Merrill Lynch)は、急いで米銀行大手バンク・オブ・アメリカ(Bank of America、バンカメ)への身売りを決めた。ウォール街の株価は、1日の下げ幅として2001年の9.11同時多発テロ以来最大となる504ポイント(4.42%)の下落を記録する。
これに、優良企業株で構成するダウ工業株30種平均の上場銘柄であるAIGの株価下落が続いた。米政府の圧力でAIG救済を模索していた米金融コンソーシアム(企業体)は、恐れをなして救済を断念した。
FRBは方針の180度転換を余儀なくされ、AIGの株式約80%を担保とする850億ドル(約9兆円)のつなぎ融資を発表した。FRBの説明はこうだ。「保険会社としての役割に加え、AIGは数十億ドル規模の金融商品を保証している。AIGの破たんは、『システム的リスク』に相当する」。
17日までに、パニックに陥った投資家らは、株式市場から米国債や金先物などに投資先を移した。
先行き懸念が米証券大手モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)や米最大の貯蓄貸付機関ワシントン・ミューチュアル(Washington Mutual)など他の金融機関にまで広がるに至って、混乱は世界の市場に拡大した。英金融大手HBOSは、英銀行大手ロイズTSB(Lloyds TSB)の買収案に合意。モスクワ(Moscow)では株価が暴落し、市場が閉鎖された。
18日には一転して、米政府の大規模な救済計画が浮上、株価は内外で大反発した。
■FRBの「救済策」はいつ実行される?
ポールソン財務長官が法制化を急いでいるFRBの大規模救済策は、いつ実行されるのだろうか。
議員らの些細な対立で導入が遅れるのではないかとの指摘に、ポールソン財務長官は20日、ウォールストリート・ジャーナル(Wall Street Journal)紙に対し、「(救済計画案が)議会を通過しなければ、天がわれらを救うのを待つほかない」と語っている。(c)AFP/Frederic Garlan
政府が20日発表した救済策は、最大7000億ドル(約75兆円)の不良資産の買い取りなど、総額1兆ドル(約107兆円)の公的資金を投入するというもの。この額は、フランスの国内総生産6か月分に相当する。
1929年の世界大恐慌以来、最悪の金融危機に直面したジョージ・W・ ブッシュ(George W. Bush)大統領率いる共和党政権に、解決の選択肢はあるのだろうか?
■崖っぷちに追い詰められた金融システム
米国の巨大な金融システムが崩壊寸前まで追い詰められたのは、前週半ばのことだ。金融システムの「血液」たる資金の流動性が低下し、「脈拍」にあたる短期金利は急上昇した。中央銀行が注入した大量の「モルヒネ」、すなわち緊急資金供給も、何の効果も生み出さなかった。
事態は、米上院・銀行住宅都市委員会のクリストファー・ドッド(Christopher Dodd)委員長(民主党)が「米国の金融システムの完全なるメルトダウンは数日後に迫っているかもしれない」と危惧(きぐ)を表明するほど深刻で、世界の金融不安の心臓部から病巣を摘出する緊急手術が必要だった。
■「緊急手術」で「米社会主義共和国」誕生?
こうした状況で、ヘンリー・ポールソン(Henry Paulson)米財務長官は18日、住宅バブルでふくらんだ金融機関の不良資産を政府が買い上げるという、前例のない救済計画を発表する。これは言い換えれば、米連邦準備制度理事会(FRB)が地球上で最大のヘッジファンドと化すことを意味する。
次なる措置としては、経営不振に陥った政府系の連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ、Fannie Mae)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック、Freddie Mac)、そして米保険最大手アメリカン・インターナショナル・ グループ(American International Group、AIG)の国有化が考えられる。
政府が企業株を保有する例のない米国で極めて異例の措置に、ビル・クリントン(Bill Clinton)政権でアドバイザーを務めたエコノミストのヌリエル・ルービニ(Nouriel Roubini)氏は、「ようこそ、USSRA――社会主義合衆共和国アメリカ(the United Socialist State Republic of America)」と皮肉をとばした。
一方、米証券大手ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)出身のポールソン財務長官は、「もはや個別の対応をしている場合ではない。根を断つべき時だ」と宣言。政府・議会関係者を集め、週末返上で救済計画の法制化を進めている。
■14日以降の金融市場の混乱
15日の月曜日から、いったい何が変わったのか。
14日の時点では、政府の金融問題担当者らは、危機の打開はまだ可能だと考えていた。資金難が伝えられ株価が急落していた米証券大手リーマン・ブラザーズ(Lehman Brothers)の救済について、3日間にわたって検討したポールソン財務長官とベン・ バーナンキ(Ben Bernanke)FRB議長は、リーマンが破綻(はたん)しても国際金融市場に及ぼす「システム的リスク」はないと判断、救済はしないと決定した。
翌15日、リーマンは破産法の適用を申請。連鎖破綻を恐れた同業メリルリンチ(Merrill Lynch)は、急いで米銀行大手バンク・オブ・アメリカ(Bank of America、バンカメ)への身売りを決めた。ウォール街の株価は、1日の下げ幅として2001年の9.11同時多発テロ以来最大となる504ポイント(4.42%)の下落を記録する。
これに、優良企業株で構成するダウ工業株30種平均の上場銘柄であるAIGの株価下落が続いた。米政府の圧力でAIG救済を模索していた米金融コンソーシアム(企業体)は、恐れをなして救済を断念した。
FRBは方針の180度転換を余儀なくされ、AIGの株式約80%を担保とする850億ドル(約9兆円)のつなぎ融資を発表した。FRBの説明はこうだ。「保険会社としての役割に加え、AIGは数十億ドル規模の金融商品を保証している。AIGの破たんは、『システム的リスク』に相当する」。
17日までに、パニックに陥った投資家らは、株式市場から米国債や金先物などに投資先を移した。
先行き懸念が米証券大手モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)や米最大の貯蓄貸付機関ワシントン・ミューチュアル(Washington Mutual)など他の金融機関にまで広がるに至って、混乱は世界の市場に拡大した。英金融大手HBOSは、英銀行大手ロイズTSB(Lloyds TSB)の買収案に合意。モスクワ(Moscow)では株価が暴落し、市場が閉鎖された。
18日には一転して、米政府の大規模な救済計画が浮上、株価は内外で大反発した。
■FRBの「救済策」はいつ実行される?
ポールソン財務長官が法制化を急いでいるFRBの大規模救済策は、いつ実行されるのだろうか。
議員らの些細な対立で導入が遅れるのではないかとの指摘に、ポールソン財務長官は20日、ウォールストリート・ジャーナル(Wall Street Journal)紙に対し、「(救済計画案が)議会を通過しなければ、天がわれらを救うのを待つほかない」と語っている。(c)AFP/Frederic Garlan