【9月21日 AFP】1997-98年のアジア通貨危機の際、米政府は、資金不足の企業を救済しようとしているとしてアジア各国政府を非難した。だが、米政府は今月、世界的な金融危機で経営破たんした自国の企業に対し救済措置をとった。この動きをダブルスタンダードと見る専門家もいる。

 米連邦準備制度理事会(Board of Governors of Federal Reserve SystemFRB)は16日、資金繰りが悪化している米保険最大手アメリカン・インターナショナル・グループ(American International GroupAIG)の破たんを回避するため、AIGの株式約80%を担保に850億ドル(約9兆円)のつなぎ融資に応じると発表。同日の世界の株式市場は急落した。

 今年これまでに米政府は、投資銀行大手ベアー・スターンズ(Bear Stearns)や、米連邦住宅抵当公庫(ファニーメイ、Fannie Mae)と米連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック、Freddie Mac)の破たん回避のため巨額の公的資金を投入している。

 アジア通貨危機の際、米政府と国際通貨基金(International Monetary FundIMF)は、アジア各国の政府に対し経営不振企業をいわば見殺しにするよう指示した。米政府の今回の救済策は、当時の対応と対照的だとするエコノミストもいる。
 
 2003-06年にIMFの主任エコノミストを務めたラグラム・ラジャン(Raghuram Rajan)氏は、「当時、米国がアジア(の地元企業の救済)に融資することに反対していた米政府の一部の専門家も、今回は基本的に政府の多様な介入を求めている」と指摘。「『市場に任せて、自然に落ち着くところに落ち着かせよう』と言うのは誠に結構なことだが、投機的な売りに押されて大企業の株価が急落して破たんの危機が迫れば、『そのようなことはあってはならない』と政府が介入するのは至極もっともだ」と語った。

 18日のニューヨーク・タイムズ(New York Times)は、アジア通貨危機当時、韓国に200億ドルを融資する条件として経営不振の銀行や企業を救済せず、そのまま破たんさせるようIMFが指示したという、当時IMFとの交渉に深く関わった韓国のエコノミストYung Chul Park氏の話を伝えた。

 現在ソウル(Seoul)の高麗大学(Korea University)教授のPark氏は、米国の金融危機は世界全体が影響を受け、1地域だけが影響が受けたアジア通貨危機の時とは異なるが、「米政府は、今回は当時とは違うシナリオに従っている」と述べた。

 世界の金融システムの保護は不可避なことだとして米国の救済措置を積極的に擁護する専門家もいる。米ワシントンD.C.(Washington D.C.)のピーターソン国際経済研究所(Peterson Institute for International Economics)のアジア専門家、ニコラス・ラーディー(Nicholas Lardy)氏は、「AIGが破たんしていたら、主に欧州の銀行が大きな影響を受けていただろう。米国はAIGの破たんを回避することで世界に対する大きな役割を果たした」と説明する。「今、我々が目の当たりにしているのは、世界の金融システムの中心にある企業だ」とアジア通貨危機との違いを強調した。

 ラーディ氏また、全米第4位の証券会社リーマン・ブラザーズ(Lehman Brothers)が経営破たんしたことを挙げ、米財務省は無差別な企業救済を目指しているわけではないことを指摘した。 (c)AFP/P. Parameswaran