【2月18日 AFP】東芝(Toshiba)などが推進してきた「HD DVD」が次世代DVD規格の主導権争いから撤退する可能性が高まっている。規格が並立する状態が解消されれば、消費者の間の混乱も落ち着くとみられるが、競争不在から製品価格が下げ止まり、次世代DVDプレーヤーは当面の間、ニッチ市場の製品にとどまる可能性を指摘している。

 1970年代のビデオ規格をめぐる「VHS対ベータ戦争」の再来ともいえる次世代DVD規格競争で、ハイテクを誇る日本の大手家電メーカー各社は、業界標準の確立をめぐり互換性のない2種類のフォーマット間でしのぎを削ってきた。

 米小売り最大手のウォルマート・ ストアーズ(Wal-Mart Stores)が前週、HD DVD販売からの撤退を発表したことで、高画質DVD規格はソニーなどが推進する「ブルーレイ・ディスク(BD)」に一本化される公算が高まった。18日には、東芝は同事業からの完全撤退も視野に入れ、事業見直しを行う方針だとの情報も伝えられた。

 ITリサーチ企業ガートナー(Gartner)のアナリスト、清水宏之(Hiroyuki Shimizu)氏は、互換性のない2つの規格があるために次世代DVDレコーダーを買い控えていた消費者にとっては朗報だと語る。「規格が一つだけならば、消費者は互換性の心配をしないですむ」

 しかし東芝の撤退は、すでにHD DVD規格のプレーヤーを購入している消費者にとっては喜ばしい事態ではない。

■競争は業界内標準争いから、ビジネスモデル間へ

 ブルーレイの勝利は、ヘッドホンカセット「ウォークマン(Walkman)」などの開発で革新的企業として世界に名を響かせたものの、近年はアップル(Apple)の携帯音楽プレーヤーiPodなどの後塵を拝していたソニーにとって、その名声に再び輝きを与える要素といえる。

 しかし、一方で「メーカー側にはまだ、既存のDVDレコーダーで満足している顧客に次世代DVDへの買い替えを説得するという課題が待っている」と清水氏は指摘する。

 また、インターネット経由で動画を楽しむ人が増えており、DVDプレーヤーを使用する人自体が減るともいわれている。日本や韓国ではさらに、携帯電話でテレビを観ることさえ一般化しつつある。「競争の性格は業界内標準を勝ち取る必要性から、ほかのビジネスモデルとの競争へと変化しつつある」(清水氏)

■競争不在で価格低下に歯止めも

 ブルーレイもHD DVDも、映画並みの高画質とマルチメディア環境を提供するが、価格は現行DVDよりも大幅に高くなる。そのため「次世代DVDが家庭用として人気が出るにはもう数年かかるだろう。ブルーレイプレーヤーの価格はまだ10万円以上している」と電子情報技術産業協会(Japan Electronics and Information Technology Industries AssociationJEITA)の長岡勉(Tsutomu Nagaoka)氏と指摘する。

 東芝が事業から撤退すれば、次世代DVDの価格引き下げが遅れるとの懸念はほかからもあがっている。テクニカルライターの一条真人(Masahito Ichijo)氏は、HD DVDメーカー側の低価格攻勢がなければ1年で30%も下がったというような過去2年間にみられた大幅な値下げを今後も期待することは難しいと話す。

■高画質DVDファンは今でもブルーレイ

「HD DVD」の行き詰まりは1月にハリウッド(Hollywood)のDVDソフト最大手ワーナー・ブラザーズ(Warner Brothers)が、今後販売するDVD規格をブルーレイに絞ると発表した時点からその予兆があった。米市場に比べればHD DVDにとってまだ希望があった日本市場でも、2007年9-12月の次世代DVDの販売シェアは、ブルーレイを搭載したソニーのプレーステーション(PlayStation)を除いた数値でさえ、ブルーレイが90%を占め、HD DVDに対し圧倒的に優位に立っていた。

 しかし、ようやく規格競争の出口が見えたといっても、小売店はブルーレイレコーダーの売上が急激に伸びることはないとの冷静な見方をしている。福岡市に本社を置く大手家電量販店「ベスト電器(Best Denki)」の店員は、「高画質DVDを欲しがる消費者の大半は今でもブルーレイを買っている。東芝撤退のニュースによって、売り場になんらか影響があるとは思わない」と述べた。(c)AFP/Kyoko Hasegawa