【10月17日 AFP】英ロックバンド、レディオヘッド(Radiohead)は先週、ニューアルバム『In Rainbows』のインターネット・ダウンロード版を買い手の好きな価格で提供するという実験的戦略を発表し、音楽業界に衝撃を与えた。

 レディオヘッドの決断は、アルバムの価格決定やレコード会社の将来をめぐる論争に火を付けた。英音楽チャート誌「ミュージック・ウィーク(Music Week)」は「音楽界に確固とした地位を築きながらも、ルールに縛られず、独自の方針に基づき突き進むレディオヘッドならではの行動」と指摘。

 レディオヘッドの戦略が実現したのは、英レコード大手EMIとの契約が終了し、音楽の方向性や販売戦略を自由に決められるようになったからだ。買い手が価格を決めるという販売戦略が、ほかのアーティストにはどのような影響を与えるのか、注目が集まっている。こうした方法が拡大した場合、最も大きな痛手を受けるのは、違法ダウンロードで収入がすでに激減しているレコード会社だと見られる。

 英ロックバンド、ザ・シャーラタンズ(The Charlatans)のマネージャー、アラン・マッギー(Alan McGee)氏は最近、BBCラジオに出演し、「レコード会社を絞め殺すのは良いことだ」と発言。シャーラタンズは22日にリリースするシングルと、それに続くアルバムを、音楽ラジオ局Xfmのウェブサイトから直接ダウンロードすることをファンに認める契約を結んだ。マッギー氏は世界的スターグループのオアシス(Oasis)を発掘したことで知られる。

 売上高の減少に直面するレコード会社は対策として、宣伝活動やライブ活動を含む包括的な契約をアーティストと結ぶようになっている。「360度契約」と呼ばれる新しいタイプの契約は、ミュージシャンのキャリアのあらゆる側面をカバーし、レコード販売以外からの収入を獲得しようとするもの。

 しかし、「360度契約」も万能の解決策になる保証はないという。異なる業界の新たな競合会社が、レコード会社がこれまで独占してきた領域への進出を虎視眈々と狙っているからだ。米ウォールストリート・ジャーナル(Wall Street Journal)によると、米ポップシンガーのマドンナ(Madonna)は、長期にわたり所属していたワーナー・ミュージック・グループとの契約を解消し、コンサート運営会社大手ライブ・ネーション(Live Nation)と、総額1億2000万ドル(約140億円)、10年間の新たな「360度契約」を結ぶと発表した。

 デジタル技術の発展により、アーティストが音楽を配信したり、キャリアを構築したりする手法が以前と大きく変化し、音楽業界が過渡期にあることは明らかだが、レディオヘッドの実験的販売手法の背景には、巧みな商業戦略が準備されているように見える。

 レディオヘッドはダウンロード版のほかに、さまざまな特典が付いた新アルバムのCD版を定価40ポンド(約9400円)で販売する。ある音楽業界関係者は、「面白い戦略だ。このデジタル万能時代に、旧式の特典付きCDが依然、意味を持つとは皮肉なもの」とAFPに語った。(c)AFP/Paul Ricard and Adam Plowright