【6月11日 AFP】高級ブティックや企業の本社ビルが所狭しと立ち並ぶ、東京都内で最も華やかな銀座の街。その銀座から徒歩数分、辺りには一転、魚のにおいがに立ち込めてくる。ざわついた雰囲気の中、魚介類販売業者らが新鮮な魚介類を入れたかごを持ち、威勢よく行き来する築地市場(Tsukiji Market)を目にすることができるのも、あと数年かもしれない。東京都は現在、築地市場の移転計画を進めている。

■豊洲への移転計画

 世界最大の魚市場、築地市場が誕生したのは今から70年以上前。以来、同市場は毎日、世界各国の一流レストランへ向けて、新鮮な刺身や寿司の材料を送り出してきた。初めて東京を訪れる観光客にとっては、必見の観光名所ともなっている。

 しかし、東京都の石原慎太郎(Shintaro Ishihara)知事は、地下鉄駅で企業へ通勤する人々と市場関係者がすれ違う築地から、「時代遅れ」な同市場を移転させようとしている。移転期限は2012年。移転予定地は数キロメートル離れた東京湾沿いの再開発地、豊洲だ。

 石原都知事は、土地に窮する東京中心部をより有効に活用できると考えている。自らが推進し、候補地として名乗りを上げている2016年夏の東京五輪開催が実現した場合、築地市場跡地をメディアセンターとして使用することを提案している。

 しかし、市場関係者らは都知事の計画について、「たとえ移転先が現在より衛生的で、スペース的なゆとりがあるとしても、移転は江戸前寿司に代表される築地文化の心臓部を直撃する行為だ」と怒り心頭だ。

■移転反対派、場外市場への影響を懸念

 中卸業者で構成する移転反対派の組織の代表は、「移転によって、小規模な中卸が市場からの撤退を余儀なくされ、食文化が崩壊する可能性がある。小規模業者は、豊洲の高額な施設使用料を支払えないだろう。築地で商売を行っていることには何の問題もない。だが、(移転すれば)水不足や施設使用料の値上げなどの問題に直面する。最も心配なのは、豊洲の土壌汚染問題だ」と語る。

 反対派はまた、地下鉄や電車などの交通網が発達していない豊洲の立地条件についても懸念している。「移転すれば、場外市場で営業している中卸業者が、中央市場から引き離されてしまう」と指摘する。

 冷凍魚介類を扱う仲買人の男性は「自転車でやって来て、中卸数件を回って買い付けている。小規模の卸売は(移転後は)どうなってしまうのか」と語る。

 築地場外市場商店街振興組合の鈴木章夫(Akio Suzuki)理事長によれば、仲卸業者の約3分の2は、中央卸売市場とともに移転することを考えていないという。

 築地市場の主要な顧客である築地の魚介類小売店や高級飲食店らも、苦境に陥ると語っている。

 一方、同市場の移転賛成派らは「築地市場は近代的な設備を導入し、時代と共に変化する必要がある」と主張する。

■直接仕入れのスーパーとの競争

 世界の寿司ブームと逆行するように、日本国内の魚介類の消費量は徐々に減っている。農林水産省の最近の調査結果によると、西欧式の食生活を好む国民が増加し、国内の肉消費量が魚介類の消費量を上回る可能性があるという。

 東京魚市場卸協同組合の伊藤宏之理事長は「移転せずに築地市場を改装するという選択肢はすでに検討済み。その上で、(移転なしの)その選択肢は不可能だと判断した。スペースが不十分なのだから」と語る。「その上、築地市場は、卸売業者を経由せずに生産者から直接仕入れを行っている大規模スーパーやディスカウント・ショップと、競争しなければならない」と述べる。

 1986年に約80万トンだった築地市場の年間取引量は、2006年には57万トンにまで減少している。

 伊藤理事長は「スーパー・マーケットのニーズを満たすには、魚を処理するためのスペースが必要だと、組合員の大半が訴えている。このニーズを満たすことができなければ、卸売市場は消滅するだろう」と述べた。(c)AFP/Kyoko Hasegawa