伊座礁船引き起こし、「ジェットコースターのようだった」責任者
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【9月18日 AFP】イタリア中部ジリオ(Giglio)島沖で昨年1月に座礁したクルーズ船「コスタ・コンコルディア(Costa Concordia)号」を垂直に引き起こす作業を任された船舶引き揚げの達人、ニック・スローン(Nick Sloane)氏は17日、19時間の作業の末、史上最大の引き起こし作業を成功させた。
彼は英雄と呼ばれた──「ジリオの伝説」と。
「ジェットコースターのようだった。ホッとしている」。本人曰くこれまでで「最も困難だった」任務を終えたスローン氏は、かすれ目に笑みを浮かべて、歓声と称賛の声の聞こえる方へと管制室を後にした。
南アフリカ国籍のスローン氏は大規模の海難事故に何度も携わってきたベテランだ。引き起こし作業は、スローン氏率いる11人の熟練チームが11万4500トンのコンコルディア号のそばに設置されたバージ船から指揮した。
スローン氏とチームは、ダイバー、溶接作業員、エンジニアら500人強の国際チームと港沿いのバーで合流し、夜明けごろ、作業の成功に祝杯をあげた。
管制室チームのメンバーは、英国、ドイツ、ベルギー、イタリア出身の水中ロボット遠隔操作から水力工学までのさまざまな専門家たちで構成され、「偉大なる11人」と呼ばれた。11人のチームは、鋼鉄製ケーブルと滑車、おもりからなる大がかりなシステムを監視した。
「チームの全員が、この困難に立ち向かったことを誇りに思っている。多くの人が実現不可能だと思ったからなおさらだ」とスローン氏は振り返った。
■36本の大型ワイヤーで巨大客船を引き起こす
コスタ・コンコルディア号は、タイタニック(Titanic)号より大きく、その重量は2倍以上になる。全長290メートルの船体を引き起こすために使用された鉄の量は3万トン。16日の作業開始が嵐の到来で延期される中、この規模の船でワイヤを使った引き起こし作業が行われることが初めてだったこともあり、現場では張り詰めた空気が広がった。
24時間近くにわたり、管制室からの全ての視線は水上と水中の両方の映像を映す大型スクリーンに釘付けとなった。慎重さが求められる作業は、工程の中頃で1時間ほど中断され、山登りの訓練を受けた技術者が船体を登り、船を引く36本の巨大なケーブルの状態を点検した。最終段階になると、重力によって船体に垂直方向へと倒れる力が働いたため、作業は驚くほどの速さで進んだ。
スローン氏は記者団に対して、20か月間水没していた側面の強度を確認し、えい航に耐えうるかどうかを確かめる必要があると述べたが、「このようなやり方で引き起こしができる強度があったのだから、えい航にも耐えうるだろう」と続けた。
■「ジリオの伝説」となった男
スローン氏を「ジリオの伝説」と名付けたのは市民保護局(Protezione Civile)長官でプロジェクト監督のフランコ・ガブリエリ(Franco Gabrielli)氏だったが、この愛称は島の住民にすぐに広まった。
今、スローン氏の頭の中にあるのは睡眠と祝福だ。「まずビール、次に睡眠。それから明日はバーベキューかな」とスローン氏は語り、背後の海に悠然と浮かぶ船をもう1度振り返ってから、港を後にした。(c)AFP/Laure BRUMONT