【7月11日 AFP】パリ(Paris)のセーヌ川(Seine)の中州、サンルイ(Saint-Louis)島にある17世紀の邸宅「ランベール館(Hotel Lambert)」で10日午前1時30分(日本時間同日午後8時30分)ごろに火災が発生し、数世紀前の芸術作品などが大きく損傷した。この邸宅にはフランスの哲学者ボルテール(Voltaire)が暮らしたこともあり、国連教育科学文化機関(ユネスコ、UNESCO)の世界遺産(World Heritage Site)に登録されている。

 ランベール館は2007年にカタールの首長家が購入。現在は改装作業が行われており、議論を呼んでいた。地元の消防署がAFPに語ったところによると、火災は改装工事に関連した事故で、屋根から発火したとみられている。

 近隣の住民十数人が避難したほか、消火活動にあたった消防士の1人が軽傷を負った。鎮火には6時間を要し、所蔵されていたシャルル・ル・ブラン(Charles Le Brun)の作品をはじめとする絵画のほか、建物の壁画やフレスコ画が損傷を受けた。

 現場を訪れたオレリー・フィリペティ(Aurelie Filippetti)文化・通信相は、「パリの重要な遺産が非常に大きな打撃を受けた。一部は修復不可能だ」と述べた。同相によると、火災の原因はまだ特定されておらず、警察が捜査を行っている。

 また同相は、カタールの首長家はすでに仏政府およびパリ市役所と連絡をとっており、「パリのすばらしい遺産を修復するために可能なこと」はすべて行うと約束したという。

■華やかな歴史を持つ「ランベール館」

 1640年代にサンルイ島の東端に建設されたランベール館は、資本家ニコラ・ランベール(Nicolas Lambert)のために、建築家ルイ・ル・ボー(Louis Le Vau)が設計した。ル・ボーはルイ14世(Louis XIV)が行ったベルサイユ宮殿(Chateau de Versailles)の拡張工事にも携わったことで知られている。

 ル・ブランなど当時の巨匠たちの手によるフレスコ画が特徴となっているこの邸宅は、17世紀半ばのフランス建築の最高傑作の1つだ。

 そしてこの邸宅は、その後も数多くの著名な人々によって利用されてきた。18世紀の哲学者ボルテールが利用した時期があるほか、19世紀にはポーランドからの亡命者たちが政治活動の拠点とした。

■文化に影響を及ぼす経済関係

 フランスと強い外交関係を維持しているカタールだが、その首長家によるランベール館の買収は文化的に貴重なものが破壊されることにつながる可能性もあるとして、遺産保護活動家らの間で議論を呼んだ。

 活動家や近隣住民の申し立てを受け、フランスの裁判所は駐車スペースや自動車用エレベーターの設置などを含む大がかりな改装の計画を禁じた。

 しかし、それでもカタール首長家は2007年、英財閥ロスチャイルド(Rothschild)家からおよそ6000万ユーロ(約77億6000万円)でこの邸宅を購入した。

 首長家を支持する人たちは、邸宅は何世紀にもわたって放置されたために傷んでおり、改築は不可欠だと主張。また、こうした批判はパリ中心部にある類いまれな建築物が外国人に買われることを嫌がる気持ちに根ざしたものだとみる向きもあった。

 政府管理の下、数週間にわたって細心の注意を要する交渉が行われた後、遺産管理団体と合意に至り、論争が最終的に解決したのは2010年1月だった。

 カタールの首長家はフランスに多額の投資を行っている。有名な不動産を複数買収しているほか、石油大手トタル(Total)や総合メディア企業ビベンディ(Vivendi)などの主力企業、サッカーチームのパリ・サンジェルマン(Paris Saint-Germain)に投資している。

 フランス外務省の推計によると、カタールの対仏投資額は過去5年間で少なくとも150億ドル(約1兆5000億円)に上っている。(c)AFP/Marion Thibaut