福島第1原発の現場から ― 拭えぬ安全への不安
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【3月2日 AFP】間もなく発生から1年を迎える東日本大震災で未曽有の事故を起こした東京電力(TEPCO)福島第1原子力発電所。その内部で日給1万円程度で働く作業員たちにとって、この原子力災害は公式発表で言われるような「安全」からはほど遠い。
日本政府は、前年3月に大津波で破壊された福島第1原発の現況について「冷温停止状態」を宣言し、東電とともに、残るは後始末だけとの印象を与えようと必死だ。廃炉作業の終了まで恐らく40年はかかると認めているにもかかわらず、さまざまなことを制御できていると主張している。
だが、福島第1原発の内側で何日間かを過ごした人々の見方は違う。
■「線量がめちゃくちゃ高い場所がたくさん」
前年9月から冷却装置関係の作業に携わっている、ある下請け会社の50代の作業員は言う。「まったく安全じゃないですよ。それははっきりと言えます。線量がめちゃくちゃ高い場所がたくさんある」
日給8000円の仕事を失いたくないと自分の名前は伏せたこの作業員は、自分たちのような下請け業者に対する扱いは、まるで動物並みだとも述べた。温度計が摂氏38度を示した真夏の間、作業員たちは水の補給なしで最大3時間も作業しなければならなかった。防護マスクを外すことができないので、水を飲めなかったのだ。
中には亡くなった作業員もいる。5月に心臓発作で亡くなった60歳の下請け作業員は、労働基準監督官によると過労だった。東電は放射線被曝(ばく)とは関係ないとしている。同社広報担当の細田千恵(Chie Hosoda)氏は、以前は線量計の数が足りず一部作業員の被曝量を測り損ねていたなど、労働環境が好ましくなかったことは認めつつ「しかし、現在は労働条件が改善されており、全ての作業員に対する放射線量もきちんと測られています」と説明した。
福島第1原発が津波で水浸しとなった後、冷却装置の機能は失われ、燃料棒は急速に過熱。海水も含め入手可能なあらゆる水を使って緊急冷却作業が行われたが、原子炉4機のうち3機がメルトダウンした。1か月後になって日本政府はようやく原発事故のレベル評価を引き上げ、旧ソ連のチェルノブイリ(Chernobyl)原発事故と同じ「レベル7」とした。作業員たちが、果たさなければならない膨大な任務を確認するため原子炉建屋に入ることができたのは、5月5日だった。
■慣れた原発作業員は福島を避ける ― 「生涯被曝量」167人の現実
現在、福島第1原発では技術者や原子力専門家、電気技師など毎日約3600人が働いており、東電は人員確保に問題はないと主張する。しかし、低賃金作業員の支援を行っている東京労働安全衛生センター (Tokyo Occupational Safety and Health Centre)の飯田勝泰(Katsuyasu Iida)常務理事は、労働条件を改善しなければ、福島の現場は労働力不足に直面するだろうと警告する。
原発労働の経験者は、福島第1原発を避けている。ある作業員は東京新聞(Tokyo Shimbun)の取材に、福島原発で長く働いてきた作業員の多くは、危ないから第1には行かないと語っている。給料がさほど良くないのに加え、高レベル放射線被曝の危険を冒すことによって仕事を失いたくないからだという。
東電によると既に、福島第1原発で働いていた少なくとも167人の作業員が「生涯被曝量」の100ミリシーベルトに達しており、これ以上原発で働くことができない。
■急場作りの冷却装置、先行きは不透明
専門家たちは、福島第1原発には恒久的な安全基準がほとんどなく、事故の初期対応は急場しのぎの解決法の連続だったと批判している。再び大きな自然災害が起これば、ひとたまりもないだろうという指摘だ。
原子炉の専門家である九州大学(Kyushu University)の工藤和彦(Kazuhiko Kudo)特任教授は、福島第1原発で使われている冷却装置について「普通の原子炉で一般的に用いられているものとは違う。あくまで緊急措置的なもの」だと説明した。現在も最優先事項は放射能の封じ込めで、被曝リスクも依然高いなか「原子炉の安定化は事故収束の前提条件だ」と同教授。だが、原子炉内部の状態は把握が難しく、現場では冷却装置の水漏れなど、作業の失敗や後退がたびたび発覚している。
2011年夏に潜入取材として福島第1原発で働いた経験を著書に記したフリーライターの鈴木智彦(Tomohiko Suzuki)氏は、同原発は明らかにいまだ「危機状態」だと指摘。「(東京電力)は、冷温停止状態を早期に達成するため、(冷却装置の)ずさんな建設を進めてきた。東電は何年もかけてこの冷温停止状態を維持しなければいけない。しかし、作業員への被曝なしにそれができるのかが疑問」だと話している。(c)AFP/Shingo Ito
日本政府は、前年3月に大津波で破壊された福島第1原発の現況について「冷温停止状態」を宣言し、東電とともに、残るは後始末だけとの印象を与えようと必死だ。廃炉作業の終了まで恐らく40年はかかると認めているにもかかわらず、さまざまなことを制御できていると主張している。
だが、福島第1原発の内側で何日間かを過ごした人々の見方は違う。
■「線量がめちゃくちゃ高い場所がたくさん」
前年9月から冷却装置関係の作業に携わっている、ある下請け会社の50代の作業員は言う。「まったく安全じゃないですよ。それははっきりと言えます。線量がめちゃくちゃ高い場所がたくさんある」
日給8000円の仕事を失いたくないと自分の名前は伏せたこの作業員は、自分たちのような下請け業者に対する扱いは、まるで動物並みだとも述べた。温度計が摂氏38度を示した真夏の間、作業員たちは水の補給なしで最大3時間も作業しなければならなかった。防護マスクを外すことができないので、水を飲めなかったのだ。
中には亡くなった作業員もいる。5月に心臓発作で亡くなった60歳の下請け作業員は、労働基準監督官によると過労だった。東電は放射線被曝(ばく)とは関係ないとしている。同社広報担当の細田千恵(Chie Hosoda)氏は、以前は線量計の数が足りず一部作業員の被曝量を測り損ねていたなど、労働環境が好ましくなかったことは認めつつ「しかし、現在は労働条件が改善されており、全ての作業員に対する放射線量もきちんと測られています」と説明した。
福島第1原発が津波で水浸しとなった後、冷却装置の機能は失われ、燃料棒は急速に過熱。海水も含め入手可能なあらゆる水を使って緊急冷却作業が行われたが、原子炉4機のうち3機がメルトダウンした。1か月後になって日本政府はようやく原発事故のレベル評価を引き上げ、旧ソ連のチェルノブイリ(Chernobyl)原発事故と同じ「レベル7」とした。作業員たちが、果たさなければならない膨大な任務を確認するため原子炉建屋に入ることができたのは、5月5日だった。
■慣れた原発作業員は福島を避ける ― 「生涯被曝量」167人の現実
現在、福島第1原発では技術者や原子力専門家、電気技師など毎日約3600人が働いており、東電は人員確保に問題はないと主張する。しかし、低賃金作業員の支援を行っている東京労働安全衛生センター (Tokyo Occupational Safety and Health Centre)の飯田勝泰(Katsuyasu Iida)常務理事は、労働条件を改善しなければ、福島の現場は労働力不足に直面するだろうと警告する。
原発労働の経験者は、福島第1原発を避けている。ある作業員は東京新聞(Tokyo Shimbun)の取材に、福島原発で長く働いてきた作業員の多くは、危ないから第1には行かないと語っている。給料がさほど良くないのに加え、高レベル放射線被曝の危険を冒すことによって仕事を失いたくないからだという。
東電によると既に、福島第1原発で働いていた少なくとも167人の作業員が「生涯被曝量」の100ミリシーベルトに達しており、これ以上原発で働くことができない。
■急場作りの冷却装置、先行きは不透明
専門家たちは、福島第1原発には恒久的な安全基準がほとんどなく、事故の初期対応は急場しのぎの解決法の連続だったと批判している。再び大きな自然災害が起これば、ひとたまりもないだろうという指摘だ。
原子炉の専門家である九州大学(Kyushu University)の工藤和彦(Kazuhiko Kudo)特任教授は、福島第1原発で使われている冷却装置について「普通の原子炉で一般的に用いられているものとは違う。あくまで緊急措置的なもの」だと説明した。現在も最優先事項は放射能の封じ込めで、被曝リスクも依然高いなか「原子炉の安定化は事故収束の前提条件だ」と同教授。だが、原子炉内部の状態は把握が難しく、現場では冷却装置の水漏れなど、作業の失敗や後退がたびたび発覚している。
2011年夏に潜入取材として福島第1原発で働いた経験を著書に記したフリーライターの鈴木智彦(Tomohiko Suzuki)氏は、同原発は明らかにいまだ「危機状態」だと指摘。「(東京電力)は、冷温停止状態を早期に達成するため、(冷却装置の)ずさんな建設を進めてきた。東電は何年もかけてこの冷温停止状態を維持しなければいけない。しかし、作業員への被曝なしにそれができるのかが疑問」だと話している。(c)AFP/Shingo Ito