【11月2日 AFP】収束の兆しの見えないタイの大洪水が、人口1200万人の首都バンコク(Bangkok)の市民の間に顕著な分断を生んでいる。

 郊外の大部分はゆっくりと南下してきた大量の水に沈み、住民たちが日々の食事にも困窮しているのに対し、市中心部のショッピング街やホテル街、エリート層の住む住宅地などは一滴の水もなく、乾いているからだ。被災地区の住民は、都心部を守るため自分たちの家々が犠牲にされたと抗議しており、中には堤防を壊す人々も出ている。

「支援はここまでは届かない。2、3日のうちに米は底をつくけど、どうやって食料を手に入れたらいいのか分からない」。チャオプラヤ(Chao Phraya)川の西側に位置するバンプラット(Bang Phlat)地区の自宅前で、茶色い水に腰まで漬かりながらサイスニー・ソンタナさんは嘆いた。

 木造の小さな家が立ち並ぶ同地区は最も被害の大きい地区の1つで、1週間以上も冠水したままだ。車で少し走ったところにあるレストランでは、空調の効いた部屋で金持ちがディナーを食べているというのに、だ。

 支援物資を積んだトラックは毎日、都心部とバンプラット地区を結ぶ橋のところまでやってくる。しかし橋にたどり着くには、ゴミや死んだ魚が浮かんだ汚水の中を数百メートルも歩いていかなければならない。トラックが着く時間も日によってまちまちで、ほとんどの住民は支援の手の届かないところにいる。

 地元当局は、援助資金やボート、人員の不足が原因だと主張している。

 タクシン・シナワット(Thaksin Shinawatra)元首相を支持する「赤シャツ隊」のデモで階級の分断があらわになったタイ社会。チュラロンコン大学(Chulalongkorn University)のThitinan Pongsudhirak氏(政治学)は、洪水によって階級格差が再び浮き彫りになっていると指摘した。ただ、「郊外を犠牲にして裕福な地域を守っている」当局の政策は意図的なものではなく、「対応が遅く非効率的な官僚主義」が原因だと話している。(c)AFP/Amelie Bottollier-Depois

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