【1月3日 AFP】昨年夏にパキスタンを襲った大洪水は、増水があまりに早かったため、同国一といわれる野生動物公園でも動物たちを救うことはできなかった。ヒョウやシカ、クマたちはみな水に飲み込まれて命を落とした。
 
 観光地としても知られるクンドパーク(Kund Park)は、首都イスラマバード(Islamabad)から北西100キロのカブール(Kabul)川とインダス(Indus)川の合流地点に広がる野生動物の保護公園だ。しかし昨夏の洪水では、約100種の絶滅危ぐ種を含むすべての動物を失い、自然災害による野生動物の被害としてはパキスタン史上最悪となった。

 同地域では、アフガニスタンの旧支配勢力タリバン(Taliban)に対する軍事攻撃により、すでに多くの野生動物の生息地が脅かされていた。その中で起きた大洪水は「全てを破壊した。保護地区内の生きものは全て死んでしまった。野生動物にとって大きな損失だ」とパキスタン北西地域野生動物保護局の元局長、ムムターズ・マリク(Mumtaz Malik)氏は嘆く。「1匹も救うことはできなかった。あれほど大きな災害は予想もしていなかったからだ」。ヒョウ2匹、シカ70匹、クマ24匹など多くの動物たちが、おりや囲いから出られずに溺死した。

■戦闘と逃げるタリバン兵に踏みにじられた聖域

 だが、米政府が国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)やタリバンとの戦いにおける最前線と位置づけるパキスタンで、野生動物の窮状に目が向けられることは少ない。

 パキスタン北西部の部族地域では、米軍の無人機がタリバンの司令官たちを追って攻撃を加えている。パキスタン軍は陸と空から、タリバン兵と数年におよび戦ってきたが、地元育ちのタリバンの歩兵たちは、自然の聖域だった山岳地帯を切り開いては身を隠し、野生動物の生息地を破壊してきた。「アフガニスタン領内やパキスタンの部族地域への空爆や砲撃が、そこに住む野生動物たちを窮地に追いやっている」とマリク氏はいう。

 だが、部族自治が認められているこの地域にパキスタンの野生動物保護法は及ばない。このため、動物たちの情報は、部族の人びとや狩猟家たちから収集している。

 パキスタンには毎年、シベリア南部から少なくとも50万~100万羽の渡り鳥が飛来する。彼らは11月から12月にかけて、繁殖地であるシベリアや中央アジアから、越冬地を求めてインダス川やカブール川の流域にやってくる。

 しかし正確な統計はないが、野鳥専門家らの調査では渡り鳥の数は年々、確実に減少しているという。戦闘も要因の一部だが、狩猟や森林伐採、都市化、地球温暖化、汚染問題など世界各地で共通にみられる要因もやはり野生動物の敵だ。

「こうした悪環境から、渡り鳥たちは代々受け継がれてきた飛来ルートを変えざるを得ない状況に追い込まれている」と、北西部カイバル・パクトゥンクワ(Khyber Pakhtunkhwa)州の野生環境保護当局のアサド・ロディ(Asad Lodhi)氏は説明する。「紛争は疑いなく(野鳥減少の)要因だ。兵器や銃弾が(生息地の)破壊をもたらしている。野鳥は非常に繊細な生きものなので、飛来するルートを変えてしまう」。しかし、正確な統計値がないのでは、野鳥減少の原因も特定不可能だとロディ氏は懸念する。

■資金援助ほしさ、政府による保護区の「身売り」も

 12月から3月の狩猟シーズンになると、野鳥や水鳥を獲物とする狩猟家たち数百人も集まってくる。中でも中東産油国の王族たちによる狩猟は、パキスタンで最も評判が悪い。彼らはアラブ首長国連邦(UAE)やサウジアラビア、クウェートなどから毎年、自家用ジェット機でパキスタンを訪れ、鷹狩りを楽しむ。

 中東の王族たちにはパキスタン政府が、資金援助と引き換えに専用の狩猟場を提供しているのだ。今年度は、サウジアラビアから2億2200万ドル(約180億円)の援助金を受け取ることになっている。(c)AFP/Sajjad Tarakzai