【6月10日 AFP】(写真追加)中国・四川大地震で四川(Sichuan)省北川(Beichuan)県の唐家山(Tangjiashan)にできた巨大な「せき止め湖」で、決壊を恐れ当局が続けてきた排水作業が10日、ようやく進展し、水位は危険域を脱した。同省の劉奇葆(Liu Qibao)党委書記は同日、「決定的な勝利を収めた」と作業の成功を宣言した。

 前日の作業などの結果、この日の排出量は大幅に増加し、5月の大地震によりすでに破壊されていた町村を、がれきや倒木などを洗い流すように大量の水が駆け抜けた。

 当局によると、排出よりもかなり前の段階で行う必要のあった住民25万人以上の避難は、比較的円滑に済んだという。「せき止め湖」が決壊した場合、130万人以上が新たに洪水災害に巻き込まれると当局は警告していたが、国営新華社(Xinhua)通信によると状況改善により、被災する可能性のある住民の数は5万人にまで減ったという。

 綿陽(Mianyang)市広報によると、排水作業は現在、当局の管理下で進んでいるという。5月12日の地震では山がちな四川省各地で多くの土砂崩れが発生したが、唐家山の「せき止め湖」はそうした土砂崩れにより、川がせき止められて生まれた。

 当局では決壊ではなく、人為的に管理した態勢で排水させるよう 、軍も出動して必死の努力を行ってきた。想定された排水ルート上の障害物に対する砲撃やダイナマイトを使った爆破が10日、ようやく功を奏し始め、排水路の流量が大幅に増えた。

 この日は終日一定して、湖への流入量の約50倍の水量で排出が進んだと新華社は報じた。排出量は毎秒、五輪の競技用プール約2個分に相当する水量だったという。

■さらなる土砂崩れや余震でまだ決壊の危険

 しかし、北川県の生存者の中には排水の様子を複雑な思いで眺める人たちもいる。特に排水路上に存在した村や町の住民たちにとって、状況は決して喜ばしいものではない。

 地震で住居を失った54歳の農民は、北川県を見下ろす山の尾根に立ち、見捨てられた町の隅々にまで水が流れ込むのを見届けながら「信じられない。あんなに美しかったわたしたちの町が跡形もなくなった。心が痛む」と嘆いた。

 一方、排水によってせき止め湖の水位は10日だけで13メートル以上下がったが、これで危険が去ったわけではまったくない。さらなる土砂崩れや余震が起これば、その影響でせき止め湖が決壊し、大洪水につながる可能性があると当局は警告。緊急本部は依然、警戒態勢を解除していない。

 同日、11日前に救助活動中に墜落し行方不明になっていた軍のヘリコプターが発見され、乗員・被災者計19人の死亡が確認された。

 墜落機の発見とせき止め湖の決壊回避という2つの緊急性は当面去ったが、地震で家を失った数百万人に対する支援など、当局の前には難題が山積みされている。北川県では膨大な復興作業に集中するため、全壊した県庁を35キロ離れた地点に移す計画を発表した。

 元の庁舎所在地だったQunshan町区では人口1万3000人のうち8600人以上が地震で亡くなった。同区は丘陵に囲まれており、渓谷にあった町は土砂崩れにより全体が埋まってしまった。新庁舎が開設されるBandengqiaoは、現地を訪ねたAFP特派員によると、大半が農地として使用されている完全な平地だという。(c)AFP