【5月28日 AFP】2006年5月、インドネシア東ジャワ(East Java)州シドアルジョ(Sidoarjo)県でガス田から高温の泥流噴出事故が起こってから1年。有毒な土砂の流出は現在も止まる気配がなく、数千人が避難所暮らしを余儀なくされている。

 この「泥火山」による避難民の1人、Muziatiさんは夫Sudartoさんや生後6か月の息子、近所の人たちと共にジャワ(Java)島ポロン(Porong)の仮設避難所に暮らしている。

「ミルクがないので重湯をあげなければならない」と言いながら、Muziatiさんは先ほど与えた貧しい食事が足りていることを願って息子を見つめた。息子は成長が遅いという。

 事故が起こったのは昨年5月29日。インドネシアの掘削企業ラピンド・ブランタス(Lapindo Brantas)が保有するガス試掘井の地中深くから、大量の泥が湯気をたてながら流出、シドアルジョ県の住民1万5000人以上が家を追われた。

 事故当時に妊娠3か月だったMuziatiさんは、勤務先のエビ加工工場が土砂に埋まり職を失った。半年後の出産日に泥をせき止めていた急ごしらえの堤防が決壊、Muziatiさんの家も飲み込まれた。

 Muziatiさん夫婦ら近隣の住民たちは避難所を探し求め、最終的にポロン付近の市場の跡地に避難した。事故責任を追及されたラピンド社からの米の配給で、何とかしのいでいる。「市長も知事も、わたしたちを気にもかけていない。訪ねてすら来ない」とSudartoさんは話す。

 泥に飲み込まれたのは9つの村で、工業地帯や農場など600ヘクタールに及ぶ。当局は被害の拡大防止に取り組んでいる。

 スシロ・バンバン・ユドヨノ(Susilo Bambang Yudhoyono)大統領はラピンド社に慰謝料3兆8000億ルピー(約512億円)の支払いと泥流の封じ込めを命じた。

 ポロンに避難している3200世帯と同様、Sudarto一家は、ラピンド社からの家と土地の20%に相当する現金の受け取りを拒否している。代わりに他の場所に移転できるよう、ラピンドに土地の買い上げを要求している。

 事故を起こした掘削企業にちなんで「デビッド・ラピンド」と子どもを名づけたSudartoさんは、「わたしたちは物乞いをしているのではない。権利を要求しているだけだ」と述べた。

 ラピンド・ブランタスは同国の富裕層の1人、アブリザル・バクリ(Aburizal Bakrie)公共福祉担当調整相とつながりがある企業だが、避難住民の救済福祉は立ち遅れている。(c)AFP/Nabiha Shahab