ナイジェリア、「赤ちゃん製造工場」の実態と背景
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【9月23日 AFP】ナイジェリアのムーンライト産婦人科クリニック(Moonlight Maternity Clinic)の経営者ベン・アクプダシェ(Ben Akpudache)氏(74)は、新生児を売っているという疑いについて「話すことは何もない」と、AFPに語った。
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南東部の都市エヌグ(Enugu)の店が立ち並ぶ地域にひっそりとあるムーンライトクリニック。その小さく暗い院内で、アクプダシェ氏は「人々が訪れて来ていろいろ質問されるのは困るんだ」と語った。
正当な医師免許を持っているか疑わしいアクプダシェ氏が経営する同クリニックは、7月にナイジェリアの治安警察部隊(NCDC)の家宅捜索を受けた。3か月間にわたるおとり捜査の結果、新生児を売っている容疑がかけられたためだ。「捜査官に子どもを買いたいふりをさせた」とNCDCの広報はAFPに語った。
警察はそれより先、5月にアクプダシェ氏の自宅を捜索し、ここでも赤ちゃんが売られていた証拠をつかんだ。
このような「赤ちゃん工場」は通常、小さなクリニックの仮面をかぶり、妊婦を住まわせ、生まれた赤ん坊を売りに出している。若い女性が意思に反して拘禁され、レイプされ、生まれた子が闇市場に出されたとされるケースもあった。だが治安当局によれば、ムーンライトクリニックも含め大半のケースは、予期せぬ妊娠をした未婚女性が、自発的に、あるいは説得されてクリニックを訪れているという。
新生児たちは数千ドルで売られ、男児のほうが女児より高い。そして母親は200ドル(約2万円)ほどを受けとる。
ある29歳の女性のケースは典型的と言えるだろう。彼女の場合、父親が中絶を求めた。だがナイジェリアで中絶は違法であり、彼女は拒んだ。すると彼女の母親が「助産師」を連れてきて、出産を助けてくれたが、この助産師が生まれた息子を1500ドル(約15万円)で売り払った。「生まれて1日しかたっていない息子を私から取り上げて……」と、女性は語った。
その後、彼女のおじが赤ちゃんを見つけ出して、取り戻してくれたという。
息子を連れ去った「助産師」について問うと、「何も言うなと口止めされた」と、女性は述べた。
■「人間は動物のように売買されてはならない」
アクプダシェ氏は現在保釈中で、本人が「合法の産婦人科クリニック」と強く主張するクリニックは今も閉鎖されていない。当局は、裁判所の決定が出るまで閉鎖できないとしている。
NCDCの広報は「人間は動物のように売買されてはならない」と述べる。
警察当局がエヌグ郊外にあるアクプダシェ氏の3階建ての自宅に捜索に入ったとき、6人の若い妊婦がいた。エヌグ警察からAFPが入手したビデオには、その妊婦の中の1人が、シングルマザーになって苦労するのではなく勉強を続けたいと語っていた。彼女にとっては、アクプダシェ氏の家で子供を産み、売りに出すのが解決策だったのだろう。同じビデオで、アクプダシェ氏は「助けを必要としている人を助けたいだけだ」と語っていた。
国連(UN)によると、人身売買は2003年に違法化されたにもかかわらず、ナイジェリアでは詐欺と麻薬売買に次いで3番目に多い犯罪だ。最高刑は終身刑だが、量刑の裁量は判事にあり、罰金だけで済むこともある。
赤ちゃんの売買は、イボ(Igbo)人が多く住む同国南東部で特に横行している。NCDCはエヌグで他にもいくつかの潜入捜査を展開しており、同地域の問題の深刻さが表れている。
■「人々の多くが違法手段に走る」
同地域でなぜ「赤ちゃん売買市場」が発展したのかには諸説ある。
赤ん坊が呪術師に売られていると恐れる人がいれば、詐欺師たちが見つけた新たな金策だと言う人もいる。
だが治安当局や人権団体は、買い手の大半は不妊に悩む夫婦だとみている。
国連の女子差別撤廃委員会(CEDAW)のメンバーで、ナイジェリア南東部で治安裁判所判事を務めたオビ・ヌワンコ(Oby Nwankwo)氏によると、男児優位主義というイボ人社会の慣習が影響している可能性がある。イボ人社会では、家長が亡くなったとき、妻や娘が遺産を相続するには多くの障壁がある。息子がいない場合、相続権は兄弟または親戚にわたってしまうこともあるという。
ナイジェリアの裁判所はこの相続に関するイボ社会の慣習を女性差別とする判決を下した。しかし、イボ社会にはいまだ男児を産まないといけないという大きなプレッシャーがあることに変わりはない。
政府の仲介による養子縁組は公的な記録が残るため、養子に対する偏見が根強い社会では敬遠される。それで「人々の多くが違法手段を求めるのだ」と、女性団体WIPNETのイルカ・ヌオケディ(Iruka Nwokedi)氏は語った。(c)AFP/Ben Simon