【6月29日 AFP】麻薬密売組織による抗争が絶えないメキシコで、報復を恐れて事件の報道に消極的な地元紙に代わり、市民たちがツイッター(Twitter)やブログなどで抗争絡みの銃撃戦や殺人に関する情報発信を始めている。

 メキシコの既存メディアは大抵、麻薬組織におびえている。そうした中、市民たちが自らの町や都市に潜む危険を常に認識しておく手段をソーシャルメディアがもたらした。

 激しい麻薬抗争が続く北部モンテレイ(Monterrey)のある市民は、「奴らは手あたり次第殺しまくっている!ラザロ・カルデナス地区で銃撃戦が発生。そこには近づくな!」とツイッターで警告を発信した。

 マイクロソフト(Microsoft)の分析チームは、抗争が最も激しいモンテレイ、レイノサ(Reynosa)、サルティーヨ(Saltillo)、ベラクルス(Veracruz)の4都市について、2010年8月~11年11月まで1年4か月間、市民のツイッター上でのやりとりを調べ、報告書「The New War Correspondents:The rise of civic media curation in urban warfare(新しい戦争特派員たち:都市抗争における市民メディア情報発信の台頭)」として発表した。これによると、ツイッター上には「爆弾が爆発」「銃撃」「武装集団」などの言葉が多く飛び交っていた。

 インターネットへのアクセス手段を持つ人々は、メキシコ全人口の30%程度で、日常的なツイッターの利用者となると20%ほどしかいない。だが、調査対象とした4都市では、シアトル(Seattle)など米国の大都市より「2倍も多いリツイート(他ユーザーが発信した情報の引用)があった」と分析チームを率いるメキシコ人研究者アンドレス・モンロイ・エルナンデス(Andres Monroy Hernandez)氏はAFPの取材に語った。

 調査によると、ツイッターでのやりとりが最も多かったのは、モンテレイで麻薬密売組織セタス(Zetas)がカジノに放火し、52人が死亡する事件が起きた2011年8月25日だった。この日、ツイッターでは犠牲者の氏名や写真が7000回も共有された。

 分析チームは、麻薬抗争の最新情報を得るためにフォローが欠かせない重要アカウントとみなされている6つのツイッター・アカウントを突き止めた。

■「ブロガー記者」たちの身に迫る危険

 匿名の方がずっと安全なため、ソーシャルメディアでの情報収集・発信者たちは実名を使っていない。そうして彼らは毎日、長いときには15時間も、残酷極まりない麻薬絡みの暴力事件の情報を集め発信している。

 こうした発信者たちにインタビューを行ってきたエルナンデス氏によると、多くは一般市民で、利他の精神からツイッターでの報告活動を続けているという。彼らは地元を良く知る人々だが、努めて名が知れないよう心掛けていると、エルナンデス氏は言う。

 メキシコの麻薬抗争では2006年以降これまでに7万人以上が犠牲となっており、ジャーナリストにとってもメキシコは最も危険な国の1つに数えられている。メキシコ人権委員会によると2000年以降、同国で殺害されたジャーナリストは86人に上り、18人の行方が分からないままだ。

 市民によるソーシャルメディアを使った麻薬抗争情報の発信は、「情報提供者としての報道機関の役割に対する妨害、そうした状況下で高まる情報の必要性、ジャーナリストに対してあってしかるべき保護の欠如、そして麻薬密売組織の危険性」などの結果として生まれたと、モンテレイ工科大学(Monterrey Institute of Technology)のオクタビオ・イスラス(Octavio Islas)氏は語る。 

 表に出ないよう努力しているにもかかわらず、中には麻薬組織を激高させてしまったブロガーも出ている。

 情報活動を管轄する政府当局者によると、麻薬組織は電話の盗聴など、情報発信サイト管理者の身元を突き止める様々な手段を持っている。

 2011年9月には米国と国境を接する北部ヌエボラレド(Nuevo Laredo)で、2児の母親だった39歳の女性が切断遺体となって発見された。遺体の脇にはキーボードが置かれ、ネット上で麻薬組織について報告したことが殺害の理由だと記したメモが残されていた。

 ヌエボラレドではその数日前にも、男性と女性の遺体が橋から吊るされた状態で見つかっていた。日常的に発生する暴力事件に関する記事や頭部を切断された遺体の写真、動画などを掲載している「麻薬ブログ」の管理者ルーシーさん(仮名)によると、2人は同サイトに定期的に情報を送っていた「ブロガー記者」だった。

 ルーシーさん自身、その後、サイトのセキュリティーを担当していたパートナーの男性が行方不明になったことから、安全のために今はスペインに逃れている。(c)AFP/Leticia Pineda